再生可能エネルギー導入目標の取り扱いに注目-EU離脱によるエネルギー産業への影響(2)-

(英国)

ロンドン発

2017年06月05日

英国は、気候変動抑制に向け、再生可能エネルギーの導入などを進めている。対策の中にはEU指令などに基づき国内法制度化されているものや、欧州排出権取引制度(EU-ETS)などEUの枠組みを通じて行われているものもある。しかしEU離脱により、再生可能エネルギー目標の断念の可能性も取り沙汰されるなど、気候変動対策についても論点は山積している。

再生可能エネルギーの導入進むも負担は増加

政府は3月30日、EU離脱に合わせて「1972年欧州共同体法」を廃止するとともに、同法を英国法に置き換えることなどを柱とする「欧州共同体法廃止法案(Great Repeal Bill)」の概要(ホワイトペーパー)を公表した(2017年3月31日記事参照)。本法に基づき、英国の法体系に直接組み込まれているEU法はそのまま英国法となり、EU指令などを根拠に立法化されている英国法についてもその効力が維持される。

EUは気候変動問題に対応するため、再生可能エネルギーの導入を推進している。この一環として、2020年までに最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合をEU全体で20%とする目標を掲げ、加盟国別に導入目標を割り振る「再生可能エネルギー利用促進指令」を制定した。本指令は法的拘束力を有し、加盟国は目標量達成の義務を負う。英国は本指令により、最終エネルギー消費比で15%に相当するエネルギーを再生可能エネルギーで賄う目標が課され、この達成に向けて電力部門、熱部門、輸送部門などの各部門で対策が講じられている。

「欧州共同体法廃止法案」に従えば、15%の目標はEU離脱後も国内目標化されるが、最近、その目標の取り扱いが注目を集めている。ブルームバーグ(4月5日)によると、政府は目標達成の断念も検討しているという。英国における再生可能エネルギーの導入比率は、2015年の段階で最終エネルギー消費比8.3%(表参照)と5年間で倍増しているものの、目標とする15%にはまだまだ及ばない。

表 最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー導入比率(単位:%)
2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
4.2 4.6 5.8 7.1 8.3

(出所)ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)

政府はこれまで再生可能エネルギーの導入に向けた補助策を導入してきたが、導入コストはエネルギー料金に転嫁され、産業界や家庭の負担は増加している。エネルギー事業者の業界団体であるエナジーUKによると、家庭のエネルギー(電気、ガス)料金に占める再生可能エネルギー導入などの環境対策コストの割合は2010年の4%から2016年には13%に膨らんでいる。会計検査院は、再生可能エネルギーの導入に向けて各家庭が負担することになるコストは2020年までに年間110ポンド(約1万5,620円、1ポンド=約142円)に上ると試算する。

15%の目標を断念することに伴い、産業界・家庭の負担は軽減されることになるが、EU単一エネルギー市場へのアクセスには障害となる。再生可能エネルギーの導入コストをEU側からすれば不十分なかたちでしか負担しない英国の事業者が、EU単一エネルギー市場にアクセスしようとするのは、「いいとこどり」に映りかねないからだ。従って、目標の取り扱いについては慎重な判断が下されるとみられる。

EU-ETSとの関係性で複数のシナリオ

英国は「2008年気候変動法」により、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で80%削減することを目標として掲げている。政府は5年間ごとの国内温室効果ガス排出量に上限を設けるカーボン・バジェット制度を設けるなどの対策を進めており、2015年のCO2排出量は1990年比で38%減となっている。

温室効果ガス排出抑制目標や達成に向けた諸施策は、EUの法規制によらず英国独自に設けたものであることから、EU離脱後も維持されるという見方が多い。

その一方で、英国も参加するEUとしての温室効果ガス削減策の根幹をなすEU-ETSとの関わりでは不透明な部分も多い。EU-ETSは対象設備に温室効果ガスの排出上限を課し、上限未達分や過達分の取引を認めるものだ。現在、EU-ETSには欧州経済領域(EEA)の構成国(EU28ヵ国、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)の参加が認められており、スイスの排出権取引制度との接続も予定されている。

EU離脱に伴うシナリオとしては、(1)EU-ETSへ継続して参加、(2)英国独自の排出権取引制度の構築、(3)英国独自の排出権取引制度を構築してEU-ETSと接続、などが考えられる。ただし、(1)の場合はルール作りへの英国の関与が限られ、英国への主権回帰を主張する政府の考え方に合致しない。また、(2)の場合はそもそも国内でそのような制度が必要なのか、他の規制手段で代替することができないのかといった議論を引き起こすことも予想され、(3)の場合は接続のルール作りに時間を要するといった問題が想定される。

2005年に導入されたEU-ETSは、2013年から第3フェーズが開始されている。第3フェーズは2020年までを期間とし、2019年3月末と予想されるEU離脱後まで続くことから、対象設備を持つ事業者は動向に注意が必要といえる。

(佐藤央樹)

(英国)

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