共通政策からの離脱で、自国の主権奪還目指す-英国のEU離脱と漁業問題(3)-

(英国、EU)

ロンドン発

2017年06月26日

英国のEU離脱(ブレグジット)交渉に際し、政府は漁業問題に関してどのような方針で臨むのか。政府は3月16日、2016年12月に上院が提出した報告に答申するかたちで基本姿勢を示している。その中には、共通漁業政策からの離脱、近隣国との協力や資源の共有、科学的アドバイスの尊重などが明記されている。連載の最終回。

政府は排他的経済水域での主権回復に意欲

議会上院「EUエネルギーと環境分科会」は2016年12月17日、「EU離脱決定後の未来の漁業政策に関する報告」を作成し、政府に今後の交渉方針についての要望を提示した。それを受けて、政府は2017年3月16日に答申を発表した。その中で政府は、EU離脱後に英国はEU共通漁業政策(CFP)から離れ、EU域外の「独立した沿岸国」として独自の漁業政策を実施すると明記している。同時に、「国際法に基づき、英国の排他的経済水域(EEZ)と水産品を含む資源管理に完全な責任を持つ」としている。

与党・保守党が総選挙を前に5月18日発表したマニフェストでは、「1964年ロンドン漁業条約」を破棄すると明記された。同条約はドイツ、フランス、イタリアなど欧州12カ国に英国沿岸6~12カイリの領海での操業を認めたものだが、これを撤回するという。

科学的根拠による資源管理も強調

ただし、英国が自国水域の主権を回復させることが、外国漁船を排除することを意味しているわけではない。政府は前述の答申で、「英国水域への外国籍漁船のアクセスを制御(コントロール)する」としたが、「アクセスを認めない」とは述べていない。水産資源が英国水域のみで成長するのではなく、各国の水域を移動することを踏まえ、最優先すべきは「過剰捕獲のリスクを避けること」とし、そのためには「隣接する国と協力して持続的で効果的な海洋資源管理を行うため、資源を分け合い、共有する用意がある」と明記している。

また、政府答申では、資源管理における科学的アドバイスの尊重が強調されている。これは、タラやヒラメなど貴重な水産資源がCFPによる漁獲枠の弊害とされる乱獲や海洋投棄により激減したことに対する強い反省に基づくものだ。また、CFPを全面的に否定するのではなく、「英国は、(資源の)持続可能性や地域協力を達成するために努力してきた。CFPの肯定的な要素を捨てるべきではない」とも述べている。

アクセス権の相互付与と漁獲割当量の配分見直しが争点に

英国のEU離脱交渉における漁業問題で、最大の争点となるのは何か。前述の議会報告と政府答申をみると、英国EEZへのアクセス権の付与と、CFPにおいて加盟国間で配分してきた年間漁獲可能量(TAC)の見直しの2つが最大の難関となりそうだ。アクセス権の付与については、議会報告は「英国EEZへの一方的なアクセス制限は、EUのEEZで操業する英国船舶への制限を招く。相互アクセスの取り決めが、交渉されるべきだ」としており、それに対し政府は「相互アクセス協定の締結を検討している」と回答している。しかし、無条件の相互アクセスではなく、何らかの取り決めが行われることになり、その条件を交渉していくものと予想される。

また、TACのクオータ割り当て(2017年6月22日記事参照)に代わる乱獲を防ぐための数量交渉については、EUが割り当てを開始した当初の1983年割当比率に基づく「相対的安定」原則に固執しているため、新しい割当量の交渉は難しいと議会報告が指摘していることに対して、政府も「これは交渉の主要な検討事項となる」との見解を示している。

漁業が交渉全体の駆け引き材料となることを懸念

漁業関係者、特にスコットランドやウェールズ、北アイルランドなどの漁業関係者は、漁業が今後のEU離脱交渉において他の交渉項目との駆け引き材料として使われ、共通漁業政策から完全に離脱できないのではないかと強い危機感を抱いている。

2016年の英国の水産物の国内水揚げをみると、量の70%、金額の54%がスコットランドに集中している(図参照)。スコットランド漁民連盟のバーティー・アームストロング会長は、かつて英国の欧州共同体(EC)加盟交渉で、漁業が「消耗品(expendable)」として駆け引き材料に使われ、その後のTAC制度と「相対的安定」原則により英国水域の6割を手放すことになったと指摘し、政府に対してCFPからの永久離脱と漁業の保護を繰り返し求めている。また、6月8日の英国下院総選挙で保守党スコットランド躍進の立役者となった同党代表のルース・デービッドソン氏も「英国はCFPから完全に離脱しなくてはいけない」と、「タイムズ」紙(6月14日)にコメントした。

図 2016年の水産物の国内水揚げ量と金額 (出所)英国海洋管理機構(MMA)

(岩井晴美)

(英国、EU)

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