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EUの共通漁業政策やクオータ制に強い不満-英国のEU離脱交渉と漁業問題(1)-

(英国、EU)

ロンドン発

2017年06月22日

英国のEU離脱(ブレグジット)交渉において、最難関の1つとみられているのが漁業問題だ。EUの共通漁業政策(CFP)の下、自国経済水域で悠然と外国漁船が操業していることに対し、英国の漁民は長年不満を募らせてきた。2016年6月の国民投票直前の調査では、漁業従事者の92%が離脱派と伝えられたほどだ。3回に分けて漁業問題の背景を取り上げるとともに、今後の政府の交渉方針について予測する。

1964年ロンドン条約でEU漁船に領海内の操業権を付与

内陸国が多いEU各国の水産業にとって、英国の排他的経済水域(EEZ)へのアクセスは大きな意味を持っている(図1参照)。英国水域では、英国のほか、主としてオランダ、ベルギー、フランス、デンマーク、アイルランド、スペイン、ポルトガルなどの漁船が操業しており、各国の漁業関係者は英国のEU離脱後のアクセス権の維持に強い懸念を抱いている。

図1 英国の排他的経済水域(EEZ)(網掛け部分)と周辺国のEEZ (出所)英国議会上院「EUエネルギーと環境分科会」作成「EU離脱決定後の未来の漁業政策に関するレポート」

英国は1964年、欧州12カ国(注)とロンドン漁業条約を締結し(1966年3月発効)、自国の領海沿岸6~12カイリ内の水域での外国漁船の操業を認めた。その後、英国自身が欧州共同体(EC、当時)に加盟(1973年)し、その共通漁業政策(CFP)に自国の漁業管理を委ねることになった。CFPの基礎となったのが1970年10月30日に発効したCFPに関する理事会規則(EEC)No2141/70だ(1971年2月1日施行)。同規則は、欧州経済共同体(EEC、当時)水域に関する加盟国間のオープンで平等なアクセスを保証し、同水域における資源保護措置を決定する権限をEECに与えた。このことは英国にとって、自国海域での主権喪失を意味した。

1983年にEEC水域に対する年間総許容漁獲高(TAC)が導入され、毎年、加盟国間で配分されるようになってからは、英国の漁民は割り当てられた漁獲枠(クオータ)に制限される一方で、他国漁船が自国EEZで操業するのを黙認せざるを得ない状態に長年置かれてきた。

政府によると、2015年に英国海域で英国以外のEU籍船舶が揚げた漁獲量は68万3,000トン〔金額換算4億8,400万ポンド(約687億円、1ポンド=約142円)〕だった一方、英国籍漁船が英国以外のEU海域で揚げた漁獲量は11万1,000トン(1億1,400万ポンド)にとどまり、EU水産業の英国水域への依存度の高さが浮き彫りとなっている。EU離脱派である漁民の団体「離脱に向けた漁業」は、英国水域の漁獲量の59%が英国以外のEU漁船によるもの(図2参照)と試算している。

 図2 2010年~2014年の英国水域、EU 水域での平均漁獲量

英国の漁業関係者にはCFPの欠陥に強い不信感

CFPは、共通農業政策から独立したことにみられるように、綿密に設計された政策ではない。前述のCFPに関する理事会規則にしても、漁業国である英国やアイルランド、ノルウェーなどのEC加盟申請を受け、その加盟前に既加盟国の権益拡大を図ろうと急ぎ策定された経緯がある。CFPは時を経ずしてさまざまなほころびが生じ、問題点が指摘されてきたが、英国にとって打撃となっているのが、「クオータ・ホッピング」問題。これは、1986年に漁業国であるスペイン、ポルトガルがECに加盟したが、両国へのTAC配分率が厳しく抑えられたことから、両国の漁業関係者が英国やアイルランドに法人を設立し、中古漁船を大量に購入して英国船籍を取得、英国企業として水産業に参入した。その結果、英国分のクオータがスペインやポルトガルに事実上横取りされている。英国は、船舶関連法を改正したり、漁業ライセンス制などを導入したりと対策を取ってきたが、現在も抜本的な解決には至っていない。

また、クオータ制の弊害として英国が最も問題視してきたのが、漁船が漁獲量を抑えるために、捕獲魚のうち船上で選別して市場価値が低いと判断したものを廃棄していることだ。英国のシンクタンク、経済問題研究所(IEA)によると、2000年代にはその量は全体の捕獲量の2~6割にも達し、それに伴う水産資源への被害は甚大なものとなった。

こうした弊害に対処するため、1992年、2002年、2013年に大幅なCFP改革が行われ、2013年の改革では捕獲魚の海洋投棄禁止が盛り込まれた〔欧州議会・理事会規則(EU)No1380/2013、2014年1月施行〕。しかし、それ以外にも、環境保護や資源管理の面からの批判、例えばTACの量やその国別配分の有効性のほか、魚種ごとに制限を行っていること自体が海洋生態系にそぐわず水産資源の保持に逆効果となっているとの指摘がある。TACやクオータ数量決定過程の不透明性や不合理性への批判も大きい。こうした背景から、英国漁民のCFPに対する不信と不満は根強く、2016年6月の国民投票直前にアバディーン大学が行った調査では、漁業従事者の92%が離脱に投票すると回答したほどだ。

(注)オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン。

(岩井晴美)

(英国、EU)

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