メイ新内閣は小幅な改造、財務相ら5閣僚は留任

(英国)

ロンドン発

2017年06月13日

下院総選挙の結果を受け、テレーザ・メイ首相は6月11日に組閣を行い、財務相、内相など主要ポストは留任となる小幅な改造にとどめた。この布陣で施政方針演説に臨むことになるが、辞任論もくすぶっていることから、自らの求心力を回復させるとともに、北アイルランドの民主統一党(DUP)の協力で辛うじて過半数を上回る議会運営を安定させることが課題となる。

離脱派率いたゴーブ元法相を環境相に

新内閣の閣僚は表のとおりで、財務相、内相、外相、国防相、EU離脱(ブレグジット)相の主要5閣僚を留任させる小幅な改造にとどまった。選挙結果を受けた新たな議会が近く召集される一方、6月19日の週にはEU離脱交渉が本格的に始まる予定となっており、政権内の混乱を最小限に抑えることなどが念頭にあるものとみられる。

表 新内閣の顔ぶれ
役職 氏名
首相・財務第一卿、公務員担当相 テレーザ・メイ
筆頭国務相・内閣府相 ダミアン・グリーン
財務相 フィリップ・ハモンド
内相 アンバー・ラッド
外相 ボリス・ジョンソン
国防相 マイケル・ファロン
法相、大法官 デービッド・リディントン
教育相 ジャスティン・グリーニング
EU離脱相 デービッド・デービス
国際通商相 リアム・フォックス
ビジネス・エネルギー・産業戦略相 グレッグ・クラーク
保健相 ジェレミー・ハント
労働・年金相 デービッド・ゴーク
運輸相 クリス・グレイリング
コミュニティー・地方政府相 サジード・ジャビド
下院(庶民院)院内総務・枢密院議長 アンドレア・レッドソム
上院(貴族院)院内総務・王璽尚書 バロネス・エバンズ・オブ・ボウズ・パーク
スコットランド相 デービッド・マンデル
ウェールズ相 アルン・カーンズ
北アイルランド相 ジェームズ・ブロークンシャー
環境・食糧・農村地域相 マイケル・ゴーブ
国際開発相 プリティ・パテル
文化・メディア・スポーツ相 カレン・ブラッドリー
ランカスター公領尚書 パトリック・マクローリン
財務相主席担当官 エリザベス・トラス
法務長官 ジェレミー・ライト
財務政務次官・院内幹事長 ガビン・ウィリアムソン
移民担当相 ブランドン・ルイス

(出所)英国議会

顔ぶれをみると、ダミアン・グリーン前労働・年金相が筆頭国務相の座に就く。過半数割れの選挙結果にメイ首相への批判が高まる中、古くからの盟友でもあるグリーン氏を政権のナンバー2に据え脇を固める。

また、環境・食糧・農村地域相にマイケル・ゴーブ元法相が任じられたことも目を引く。ゴーブ氏はEU離脱の是非を問う国民投票で離脱派キャンペーンを率い、その後の党首選にも立候補した大物だ。メイ首相はこの人事について、「全ての国民のための国造りを行うために党内から広く人材を集めたもの」と説明、厳しい政権運営が予想される中、挙党体制で臨む姿勢を強調した。今回の選挙結果を受け、産業界は政府に対してEU単一市場からの離脱も辞さない「ハードブレグジット」路線からの方針転換を期待するが、離脱派の最先鋒ともいえるゴーブ氏を内閣に迎えることがどのように作用するか注視が必要といえそうだ。

党内の団結が政権運営に欠かせず

メイ首相はこの布陣で19日に予定される議会での施政方針演説に臨む。演説は選挙マニフェストに基づくのが通例だが、今回は、議会運営で協力を得ることとなったDUPの意向も踏まえた内容とせざるを得ない。北アイルランド地域やDUPにとっての関心事は、EU離脱時のアイルランドとの国境自由化の維持と北アイルランド経済の活性化だ。これに加えて、混乱が続く北アイルランド議会の運営正常化も必要な状況にある。全て地域固有の課題で、慎重な対応が必要となるだけに、DUPとの間で施政方針演説までにどのような落とし所を探るのか、首相の手腕が問われそうだ。

また、メイ首相への批判も早急に沈静化させなければならない。側近の政策アドバイザーが辞任を表明するなど、首相周辺では選挙結果に対する責任を取る動きが出てきている。しかし、首相自身は落選議員への遺憾の意を表明したものの、これまでのところ5年間の任期を全うするという考え方を崩していない。DUPの協力を得ても議席の過半数をわずかに上回るにすぎない状況下で政権運営を進めようとするのであれば党内の団結は欠かせず、国民の不評を買った社会保障政策(2017年5月31日記事参照)などについて一定の修正を行うこともあり得るとみられている。

(佐藤央樹)

(英国)

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