下院総選挙、野党・労働党が激しい追い上げ

2大政党の支持率の差が10ポイントを切る

5月22日に北部イングランドの中心都市マンチェスターで発生した爆破テロを受け、各党は総選挙のキャンペーンを自粛していたが（2017年5月25日記事参照）、5月26日には相次いで再開した。6月8日の投票日に向けて、本格的な論戦が繰り広げられている。

そんな中、最新の世論調査の動向をみると、劣勢が伝えられてきた最大野党の労働党が、与党・保守党との差を確実に縮めてきている。まず5月18～22日に実施された調査会社カンター・パブリックの世論調査によると、保守党の支持率が前回1週間前の調査より5ポイント低い42％、労働党の支持率が5ポイント高い34％となり、その差が10ポイントを切るまでになった。テレーザ・メイ首相が議会解散の意向を表明した4月中旬前後に行われた各種世論調査では、労働党の支持率が25％程度にとどまっていたことを考慮すると、同党の挽回ぶりが分かる。

また、5月24～25日に実施された調査会社ユーガブ（YouGov）による世論調査では、保守党の支持率は前回調査（1週間前）より1ポイント低い43％、労働党の支持率は3ポイント高い38％で、その差は5ポイントになった。ユーガブが続く5月25～26日に実施した世論調査では、両党の差は7ポイントとわずかに拡大したものの、10ポイントを切る水準を維持している。

保守党の社会保障政策に批判高まる

労働党の支持率上昇の背景にあるとみられるのが、保守党マニフェストへの批判の高まりだ。保守党の掲げる社会保障政策では、保有資産が10万ポンド（約1,420万円、1ポンド＝約142円）を超える場合に介護費用の全額自己負担が求められる。これまでは自宅介護を行う場合、保有資産の算定に住宅価値を算入しなかったが、自宅介護の場合でも住宅価値を加味する制度に変更するとされ、慈善団体や年金受給者からの批判の的となった。これに対しメイ首相は、介護費の自己負担額に上限を設けることを表明し火消しを図ったが、野党の労働党や自民党は、保守党の介護制度は崩壊していると主張するなど攻勢を強めている。メイ首相は5月28日に出演したテレビ番組で、支出上限額の設定に当たり「有権者の声に耳を傾ける」と明言しつつ、「いま改革をしないと介護システムが崩壊しかねない」と政策の必要性を訴えた。

マンチェスターでのテロ事件を受け、国民の安全やテロ対策の意識が高まるとともに、強いリーダーシップを求める声も強まるとみられる。これは、前政権で内相を務めるなど、テロ対策などの政策に明るく、国民支持率も高いメイ首相にとっての追い風ともみられている。しかし、テロ事件発生後の世論調査の結果をみると、今のところは必ずしも保守党に優位に作用していない。

一方、「テレグラフ」紙（電子版5月26日）は選挙結果を推し量る上で、政党支持率だけでなく、党首への信頼度にも留意するよう指摘する。前述のユーガブの調査では、政党支持率に加えリーダーたちの信頼度についての質問も行われた。「テロの脅威から英国が安全を確保するのに正しい判断を下すことへの信頼度はどの程度か」との質問に、メイ首相を「信頼できる」と考えているのは55％、「信頼できない」としたのが30％（「分からない」は15％）となったのに対し、労働党のジェレミー・コービン党首を「信頼できる」と答えたのは33％、「信頼できない」と答えたのは51％（「分からない」は17％）で、両者の信頼度は乖離する。労働党が追い上げをみせるものの、党首への評価を踏まえると、保守党の勝利は堅いとしている。

スコットランド国民党もマニフェストを公表

保守党と労働党を中心に選挙戦が展開されているが、主要政党で唯一マニフェストを公表していなかったスコットランド国民党（SNP）のマニフェストが5月30日に公表された。2016年の国民投票でEU残留に投じた住民が多数を占めたスコットランドでは、EU離脱を選択した英国からの離脱の是非を問う住民投票の実施が大きな争点となっている。スコットランド政府首相の任に当たるSNPのニコラ・スタージョン党首は、かねて住民投票実施の意向を示しているが、メイ首相はこれを認めない姿勢だ。SNPはマニフェストで、「スコットランド住民の意思を阻害するような保守党の試みは、民主主義にかなわない」と批判している。

（佐藤央樹）