日本などからの炭素合金鋼板輸入にAD措置を発動-トランプ政権下で初めて日本製品が対象に-

(米国)

ニューヨーク発

2017年05月12日

 米国際貿易委員会(ITC)は5月5日、日本など8ヵ国・地域からの一部の炭素合金鋼板の輸入により国内産業に「実質的な損害」が生じているとの最終裁定を下した。この件に関しては、商務省が3月30日にダンピングの最終認定を行っており、ITCの裁定によりアンチダンピング(AD)税の賦課が確定した。AD調査が開始されたのはオバマ政権下だったが、日本製品へのAD税適用が確定したのはトランプ政権下で初めて。

日本製品に対するAD税は最高48.67%

ITCは5月5日、炭素合金鋼板の輸入に対するAD措置の発動に関する調査に基づき、日本を含む8ヵ国・地域からの輸入により国内産業に「実質的な損害(materially injured)」が生じているとの最終裁定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを下した。

米政府によるAD措置(注1)の発動には、(1)商務省がダンピングの存在を認定すること、(2)ITCが当該輸入による国内産業への損害(注2)を認定すること、という2つの条件を満たすことが必要となる。商務省は3月30日に、本件に関するダンピングの存在を認定しており、今回のITCの損害認定によりAD措置の発動が確定した。

AD措置の対象となるのは、日本、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、韓国、台湾の8ヵ国・地域から輸入する一部の炭素合金鋼板(注3)。2015年の貿易統計によると、対象の炭素合金鋼板を米国が日本から輸入した金額は5,486万ドル(7万1,200トン)となっている。日本企業に対するAD税率は、JFEスチール:48.67%、シマブンコーポレーション:48.67%、その他:14.79%となっており、このほかの企業による同種の製品の輸出にも一律14.79%が課される(表参照)。

賦課されるAD税率
国・地域名 AD税率
日本 JFEスチール、シマブンコーポレーション:48.67%
その他:14.79%
韓国 7.39%(※CVD税4.31%が追加で賦課)
台湾 尚承鋼鐵:3.62%
中国鋼鉄:6.95%
その他:5.29%
イタリア ノボリペツク製鉄所ベローナ、マルチェガリア:22.19%
その他:6.08%
オーストリア 53.72%
フランス インダスチールフランス:148.02%
その他:8.62%
ドイツ ディリンジャー(AG der Dillinger Hüttenwerke):5.38%
ザルツギッター:22.90%
その他:21.03%
ベルギー ノボリペツク製鉄所ベルギー:51.78%
その他:5.40%

(注)商務省資料に名前が明記されている企業でも、その他と同じ税率の場合は、企業名の記載を省略。
(出所)商務省の最終認定に関する資料

ITCの裁定を受けて、日本鉄鋼連盟は5月8日、「(ITCが)日本からの輸入製品による米国内産業への損害を認定したことは、不当かつ極めて遺憾」であり、「決定の詳細を精査し、今後の対応を検討する」との声明を発表した。

韓国に対しては補助金相殺関税も

上記8ヵ国・地域では、韓国からの輸入額が2億1,000万ドル(30万トン)で最大だった。韓国は今回の調査でAD措置のほか、補助金相殺措置の発動に係る調査対象にもなっていた。ITCが韓国政府の輸出補助金についても損害認定を行ったことで、韓国からの輸入にはAD税に加えて、政府補助金に対する相殺関税(CVD)4.31%が追加で課されることになった。

なお、今回の調査は、アルセロール・ミタルUSA(イリノイ州、世界本社:ルクセンブルク)、ニューコア(ノースカロライナ州、世界本社:米国)、SSABエンタープライジズ(イリノイ州、世界本社:スウェーデン)の申請を受けて、オバマ政権下の2016年4月に開始された。

中国など4ヵ国には発動済み

当初の申請には、上記8ヵ国・地域に加えて、中国、ブラジル、南アフリカ共和国、トルコの4ヵ国が対象として含まれていたが、これらの国については調査が終了しており、AD措置が発動され、ブラジル、南ア、トルコからの対象炭素合金鋼板輸入については1月26日からAD税が課されている。中国についても、3月17日以降の対象製品の輸入分についてAD税(68.27%)、補助金相殺関税(251.0%)が課されている(2017年4月20日記事参照)。

トランプ政権は、ADやCVDなどの貿易救済措置を積極的に活用する方針を示している。ウィルバー・ロス商務長官は、政府が自主的に貿易救済措置を発動していくことを強調しており、今後もAD措置の発動は増加することが見込まれている。

(注1)「ダンピング」とは、ある商品の輸出における販売が「正常価格」(輸出国における国内販売価格)より安い価格で行われている状態のこと。WTOのルールでは、ダンピングにより国内産業に損害が生じている場合には、輸入国は自国の国内産業を救済するための措置として、輸入品にAD税を賦課することが認められている。なお、AD税は正常価格と輸出向け販売価格の差(ダンピングマージン)が上限。

(注2)「損害」とは、国内産業に対する「実質的な損害」に加えて、「実質的な損害の恐れ」または「国内産業の確立の実質的な遅延」を指す。適用基準は、WTOアンチダンピング協定第3条に基づく。

(注3)熱延・プレス加工された炭素合金鋼板が対象。農業・建設機器、橋、機械部品、送電塔、建物、貨車、船舶などで使用されることが多い。米国の関税分類番号(HTSUS)では、以下が主な対象になる。詳細は商務省資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)参照。

7208.40.3030、7208.40.3060、7208.51.0030、7208.51.0045、7208.51.0060、7208.52.0000、7211.13.0000、7211.14.0030、7211.14.0045、7225.40.1110、7225.40.1180、7225.40.3005、7225.40.3050、7226.20.0000、7226.91.5000

(鈴木敦)

(米国)

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