NAFTA再交渉による協定の近代化に期待

(カナダ、米国、メキシコ)

トロント発

2017年05月22日

 トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の意向を米議会に通知したことを受け、カナダ側は即座に声明を発表した。カナダ政府は、NAFTAが北米地域の経済成長に貢献しており、再交渉を加盟3ヵ国共同で行う必要性を強調した。カナダ商工会議所(CCC)は、協定には多くの改善余地があることから、再交渉によりカナダのビジネスに有益なものになることに期待感を示した。民間企業からは、再交渉でカナダ側に多大な影響を及ぼすような大幅な変更が生じる可能性は低いとの見解が示された。

既存のNAFTAの実績と3ヵ国による再交渉を強調

トランプ米政権がNAFTAの再交渉の意向を議会に通知(2017年5月19日記事参照)したことを受け、カナダのクリスティア・フリーランド外相は5月18日、声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。「NAFTAの実績の1つは、カナダと北米全体の経済成長と中間層の雇用創出だ。900万人の米国人の雇用がカナダとの貿易や投資に依存しており、われわれの一体化した経済とサプライチェーンは、北米大陸全土にわたって数百万の雇用を創出している。われわれは北米の自由貿易と、全てのカナダ人が貿易による利益を享受できるよう断固として取り組む」ことを表明し、NAFTAが北米全体の経済に貢献していることを強調した。

同日のCTVニュースによると、フリーランド外相は記者のインタビューに対し、「カナダはNAFTAの『近代化』に向けた再交渉の準備ができている」「再交渉は、カナダ、米国、メキシコの3国間で一緒に行う必要がある」と述べた。同相はNAFTAの交渉期限について述べるのは時期尚早としながらも、5月23日には再交渉について協議するため、メキシコを訪問することを明らかにした。カナダのNAFTA再交渉チームの首席交渉官には、カナダEU包括的経済貿易協定(CETA)交渉で首席交渉官を務めたスティーブ・バーホール氏を起用する方針だ。

カナダ商工会議所は協定の近代化求める

CCCも同日に、カナダ側はNAFTAの再交渉を待ち続けてきており、準備は整っていると発表した。また、NAFTAは加盟する3ヵ国に有益な協定だが、多くの改善の余地があるとの見解を示した。

「グローブ・アンド・メール」紙(5月19日)によると、CCCのペリン・ビーティー会長は「トランプ大統領に対して守るべきものは守るが、NAFTAを改善するという目標のために、われわれの要求も交渉のテーブルに載せるべきだ。連邦政府は、デジタル貿易や労働力の流動性、規制協力といった越境取引を円滑にするために必要な内容を、NAFTAの新条項として追加するよう取り組むべきだ」と述べた。また、「新たな協定は、近代的でカナダのビジネスに有益なものとなり、現在の協定より優れたものになるだろう」との見解を示した。

再交渉による大幅な変更はないとの見方も

現地紙の取材に対し、北米でビジネスを行うカナダ企業2社の経営者はともに、NAFTA再交渉が大幅な変更には至らないとの考えを明らかにした。自動車部品大手リナマーのリンダ・ハーセンフラッツ最高経営責任者(CEO)は「トランプ大統領は本質的にはビジネスパーソンだ」「(NAFTAの大幅な変更が自動車産業にマイナスの影響を与えるという)事実を前に、現実的な意思決定を行うだろう」と述べた。また、カナディアン・パシフィック鉄道のキース・クリールCEOは、トランプ大統領によるNAFTAの改善要求はメキシコに向けられたものであり、「最終的にトランプ大統領は、カナダが米国にとっていかに重要な貿易相手であるかを理解するだろう」との見解を語った。

「フィナンシャル・ポスト」紙(5月18日)によると、C.D.ハウ研究所のダニエル・シュバーネン副所長は、トランプ政権が議会に通知した文書の内容について、「(トランプ大統領が選挙期間中に強調した)保護主義というより、むしろ米国からの輸出拡大を志向している」とし、同内容を興味深いと評した。

(伊藤敏一)

(カナダ、米国、メキシコ)

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