オバマ前政権下での気候変動政策を大きく転換-トランプ政権の規制緩和政策と米国石油業界(1)-

(米国)

シカゴ発

2017年04月14日

 トランプ大統領は3月28日、「エネルギー自立と経済成長」に関する大統領令に署名した。オバマ前政権の気候変動政策を大きく転換し、エネルギー開発関連の規制緩和を進める内容だ。エネルギー業界は規制緩和をおおむね歓迎しているものの、中には気候変動に関しては従来どおり対応していくと表明する企業もある。トランプ政権が進めようとする政策とそれに対する業界の動向について、2回に分けて概説する。

規制緩和に関して相次ぎ大統領令

トランプ大統領は1月30日、「規制緩和と規制コスト管理(通称、ツー・フォー・ワン)」に関する大統領令に署名した。新しい規制を1つ提案する代わりに撤廃する規制を少なくとも2つ提案する、2017年に決定される全ての規制にかかるコストは、撤廃する規制コストを上回ってはならない、としている。

2月24日には、「規制改革課題の実施」に関する大統領令を発表した。各政府機関に規制改革担当者(RRO)を任命し、RROを議長とする規制改革タスクフォースを設置する。タスクフォースは既存の規制を評価し、規制の撤廃、改定などを提案する。特に対象となる規制として、雇用を妨げるもの、時代遅れ・不必要・非効率なもの、便益よりもコストが上回るもの、規制改革上不整合なものや妨害を招くもの、などが挙げられている。

3月28日には、「エネルギー自立と経済成長」に関する大統領令に署名した(2017年4月6日記事参照)。環境に関する方針としては、米国民に「きれいな水ときれいな大気」を提供するとともに、過度の負担となっている規制の見直しを目指す。規制には、環境改善のためのコストを上回る便益が必要だとの方針で、既存規制・指令・ガイドラインなど(法制化されているものや、公共のために必要で政策と一致するものは除く)を見直す。

本大統領令により、オバマ前政権の気候行動計画や、気候変動政策に関する過去の大統領令は破棄する。また、環境諮問委員会(CEQ)は作成した温室効果ガス(GHG)の検討や気候変動影響に係るガイドラインを破棄する。環境保護庁(EPA)のクリ-ン・パワー・プランおよびその関連規制(固定発生源のGHG排出基準など)も見直す。GHG排出削減による社会コストなどを検討してきた連邦省庁間作業部会(IWG)は解散し、分析した資料は取り下げる。規制に関するコスト分析は、長年使用されている「規制分析実施のためのガイドライン(OMB Circular A-4)」を使用する。国有地の石炭鉱区リース規制は改定もしくは破棄し、内務省はリース活動を開始する。EPAの石油・天然ガス部門の排出ガス規制、内務省の国有地におけるシェールオイル・ガスの水圧破砕法(フラッキング)規制なども見直すとしている。

これらの大統領令をまとめると、新たな規制制定のハードルを高くするとともに、既存の規制に対してはタスクフォースという実行部隊を編成した上で、気候変動政策を含めビジネスの障害と指摘されている規制を見直すことになる。

環境保護庁の予算と人員削減を提案

これに呼応するように、3月16日にトランプ大統領が発表した予算教書では、規制当局であるEPAの2018会計年度予算は前年比31.4%減の57億ドルで、職員を3,200人削減する提案となっている。このとおり実施されると、EPAが新たな規制を検討することが難しくなるとみられている。

一方で、オバマケア(医療保険制度改革)代替法案の撤回にみられるように、トランプ政権と与党共和党の連携が十分でないことや、民主党の反対も予想されることから、これらの政策がどれだけ実現できるかは不透明な状況にある。さらに、連邦最高裁が2007年にGHGが大気浄化法に規定される大気汚染物質に含まれるとの判決を下し、それを受けて2009年にEPAがGHG排出により国民の健康と福祉が脅かされるとの「危険性の認定」を行っている。この判例に基づき、本大統領令に対して環境保護団体が訴訟を起こすことも予想されている。

前政権が決定した燃費基準を見直し

エネルギー関連の省庁レベルでの特筆すべき規制緩和の動向としては、自動車燃費基準(CAFE)が挙げられる。2022~2025年モデルの燃費基準については、中間評価に基づいて2018年4月までに最終決定する予定だった。2016年7月にEPA、運輸省道路交通安全局(NHTSA)、カリフォルニア州大気資源局(CARB)による中間評価のドラフトレポートが発表され、そこでは当初の燃費基準では未達の可能性がある内容となっていた。自動車業界は燃費基準の緩和を、環境規制支持派はさらなる規制強化を求めていたが、オバマ前政権下の2016年11月、EPAは2022~2025年モデルの燃費基準を変更なしで最終決定した。ところがトランプ政権になり、3月にEPAはNHTSAと中間評価の見直し、すなわち燃費基準の見直しを始めている。

ただし、CARBはこの見直しには反対で、3月に州の燃費基準として最終決定している。また1月には、2030年に1990年比でGHG排出量を40%削減する計画を提案している。CO2排出権取引、製油所からのGHG排出量の20%削減、低炭素燃料基準(LCFS)などでクリーンエネルギーを促進させるとともに、クリーン車両・トラック・船舶の普及、農業残渣(ざんさ)などからのメタン排出を削減させる。ゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)などの促進も図る。このように、州においてはトランプ政権の規制緩和や気候変動政策と相いれない動きもみられる。

(ピン・チー、長尾正基)

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