トランプ大統領、前政権の環境規制を大幅に見直し-エネルギー自立と経済成長に関する大統領令に署名-

(米国)

米州課

2017年04月06日

 トランプ大統領は3月28日、前政権が策定した地球温暖化対策を大幅に見直し、国内の化石燃料産業の振興と雇用促進を目指す「エネルギー自立と経済成長に関する大統領令」に署名した。これにより、州政府に火力発電所の二酸化炭素(CO2)排出削減を義務付けた前政権の「クリーンパワープラン」などが廃止される。

前政権の「クリーンパワープラン」を廃止へ

今回署名された大統領令(Executive Order)は、クリーンかつ安全なエネルギー開発を推進すると同時に、エネルギー自給体制の確立と経済成長や雇用促進を目指すもの。このため関係省庁に対し、国内のエネルギー開発や雇用の妨げになる環境規制の見直しを指示し、その結果を120日以内に副大統領や行政管理予算局(OMB)長らに報告するよう求めている。

火力発電所へのCO2排出規制などを定めた前政権のクリーンパワープランも、廃止に向けて見直される。また石炭産業復権のため、連邦政府所有地における石炭鉱区リースの停止は解除され、石油・ガス生産に伴うメタンガス排出削減を定めた規則も撤回されることになる。連邦政府所有地におけるシェールオイル・ガスの水圧破砕(フラッキング)規則も見直される。さらに気候の変動は、気温や海面上昇、干ばつや山火事などさまざまな影響を通じて経済的な費用になるとして、大気中に排出された炭素による経済的損害を評価するために、オバマ前政権が導入した「炭素の社会的費用」が撤廃される。

このため、オバマ前政権が策定した2013年11月1日付大統領令(国連気候変動への影響)、2013年6月25日付大統領覚書(発電所のCO2排出量の削減)、2015年11月3日付大統領覚書(天然資源の保護)、2016年9月21日付大統領覚書(米国の安全保障の一環としての気候変動対策)は、いずれも撤回される。

トランプ政権による環境・エネルギー政策の転換に伴い、2016年11月に発効した温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」で、米国が掲げた「温室効果ガスの排出量を2025年までに2005年比で26~28%削減する」目標は、達成が困難となる。しかし、パリ協定からの離脱自体について、トランプ大統領は明言していない。

大統領令は、環境規制の緩和を前提に石炭を含む国内の化石燃料、原子力、自然エネルギー開発を促進し、手頃で信頼性の高い電力供給を実現することなどを最優先課題に位置付けている。トランプ大統領は連邦環境保護庁で行われた署名式で、「連邦政府の行き過ぎを取り除き、企業や労働者たちが前進し、競争し、成功することを認めるものだ」などと語った。

石炭復権には市場性から疑問符も

今回の大統領令について、産業界は一様に歓迎しているが、環境保護団体は反対する意向を表明し、法廷闘争に持ち込む姿勢を示している。2016年の大統領選挙期間中からトランプ氏は石炭産業の復権を公約に掲げてきたが、市場性を失いつつある石炭については、その復権を疑問視する声が多い。米国エネルギー情報局(EIA)によると、米国における石炭生産量は2008年の11億7,100万ショートトン(注)をピークに減少を続け、2016年には7億3,870万ショートトンと約6割に落ち込んでいる。背景にあるのは、シェール革命でよりクリーンで安価な天然ガスが産出され、火力発電所での天然ガスの消費が増えているためだ。EIAによると燃料別発電量比率は、石炭が2008年の48.9%から2016年に30.4%へと低下したのに対して、天然ガスは21.7%から33.8%へと上昇している。「米国の天然ガス価格は足元で100万BTU(英国熱量単位)当たり2ドル台前半。大統領が石炭産業の復興を声高に唱えても、発電所での石炭コストが同4ドルを超えると誰も石炭を掘らないし、米国炭を引き取る国もなくなる」(在米日系商社)との声もある。

また、ティラーソン国務長官の出身企業であるエクソンモービルは、米国がパリ協定から離脱しないようトランプ政権に進言する書簡を、大統領令発令前の3月22日にホワイトハウスに送っている。同社は、天然ガスが石炭に代わって最もCO2を排出しないクリーンでかつ安価な化石燃料として、過去10年間、発電部門で利用が拡大してきたことを強調し、今後も同社が天然ガスへ投資を続けていく姿勢を鮮明にしている。

(注)1ショートトン=約907キログラム。

(木村誠)

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