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就労ビザ厳格化に向けた大統領令に署名-「専門職ビザ」取得対象者の最低賃金引き上げを示唆-

(米国)

ニューヨーク発

2017年04月27日

 トランプ大統領は4月18日、米国人雇用(ハイヤーアメリカン)に向けて、就労ビザの厳格化を促す大統領令に署名した。移民制度の不正利用および乱用防止などに向けた新たなルールづくりを関係当局に指示し、特に特殊技能職向け(H-1B)ビザの取得対象者について、高度技術者および高給者が優先されるよう改革を促す内容となっている。大統領令に先立ち、関係省庁が手続き変更の措置を打ち出していることから、法律事務所は注意を喚起している。

主に会計士やエンジニアが対象のH-1Bビザに言及

米大手の移民法専門法律事務所フラゴメンが4月18日に公表した記事によると、大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが意図する変更を実現するには、立法や新たな規制が必要だという。この大統領令はH-1Bビザおよびその他の雇用ベースの移民制度に即時に影響を及ぼすことはないものの、新たな規制や方針につながる幅広い見直しの口火を切るもの、と説明している。

今回、特にその改革が言及されているH-1Bビザは「専門職ビザ」と呼ばれ、主に会計士や工学系(IT系)のエンジニアなど、特定分野の高度な専門知識を必要とする職種に限られるビザで、近年は毎年、年間募集枠の8万5,000人を超す応募が殺到し、抽選で割り当てが決められている。4月3日に開始された2018年度(2017年10月~2018年9月)のH-1Bビザ申請も、開始から4日後の4月7日には募集枠の上限に達した。

同ビザについては、高度人材を受け入れるという本来の趣旨に反して、低賃金の外国人エンジニアを採用するITアウトソーシング企業などによって利用され、その結果、米国人エンジニアの賃金が低下し、米国人雇用が奪われているという批判が出ている。トランプ政権の発足以前から、共和・民主両党がH-1Bビザの対象となる職務の最低賃金を現在の6万ドルから大幅に引き上げる法案や、高学位保有者、高所得者へのビザ支給を優先する内容の改革法案を提出していた〔「ジェトロセンサー」2017年4月号(エリアリポート)「米国:就労ビザ厳格化の動き」参照〕。

今回の大統領令はそのような流れに沿ったもので、H-1Bビザの募集枠を超えた場合に抽選となる現在のシステムから、高度技術者および高給職をより優先するシステムへの改革を促している(2017年4月27日記事参照)。具体的な金額は規定されていないが、H-1Bビザ取得対象者の最低賃金の将来的な引き上げを示唆するものとなっている。

インド系ITサービス企業に大きな影響か

2015年度のH-1Bビザ発給数の内訳を国・地域別でみると、1位のインドが2位以下を大きく引き離し、全体の7割を占めている(表1参照)。

表1 H-1Bビザ発給数(出生国・地域別、2015年度)(単位:人、%)
国・地域 新規雇用 継続雇用
件数 構成比 件数 構成比 件数 構成比
インド 71,263 62.7 123,984 76.7 195,247 70.9
中国 15,438 13.6 11,231 6.9 26,669 9.7
カナダ 1,823 1.6 1,784 1.1 3,607 1.3
韓国 1,870 1.6 1,600 1.0 3,470 1.3
フィリピン 1,215 1.1 1,931 1.2 3,146 1.1
英国 1,015 0.9 1,226 0.8 2,241 0.8
台湾 1,112 1.0 948 0.6 2,060 0.7
メキシコ 970 0.9 1,047 0.6 2,017 0.7
フランス 906 0.8 888 0.5 1,794 0.7
パキスタン 749 0.7 853 0.5 1,602 0.6
日本 634 0.6 764 0.5 1,398 0.5
ブラジル 751 0.7 637 0.4 1,388 0.5
ネパール 666 0.6 719 0.4 1,385 0.5
ドイツ 706 0.6 619 0.4 1,325 0.5
トルコ 611 0.5 585 0.4 1,196 0.4
イラン 739 0.7 318 0.2 1,057 0.4
ロシア 550 0.5 506 0.3 1,056 0.4
イタリア 573 0.5 462 0.3 1,035 0.4
ベネズエラ 461 0.4 515 0.3 976 0.4
コロンビア 421 0.4 528 0.3 949 0.3
スペイン 559 0.5 379 0.2 938 0.3
その他 10,571 9.1 10,190 6.3 20,761 7.5
合計 113,603 100.0 161,714 100.0 275,317 100.0

(出所)米国移民局(USCIS)報告書を基に作成

また、ビザ申請に際して、労働省への提出が必要となる労働条件申請書(LCA)のH-1Bビザ関連の2016年度の承認状況をみると、承認された職種の上位はコンピュータシステムアナリスト、ソフトウエア(アプリケーション)開発者、コンピュータプログラマーなど、IT関連の職種に集中している(表2参照)。企業別でみると、コンサルティング企業やIT関連企業が上位を占め、特に2位のコグニザント・テクノロジー・ソリューションズU.S.、5位のウィプロ、7位のインフォシス、10位のタタ・コンサルタンシー・サービシズとインド系のITサービス企業が名を連ねている(表3参照)。

表2 LCA承認件数上位10職種(2016年度)(単位:人、%)
職種 件数 構成比
コンピュータシステムアナリスト 320,222 26.4
ソフトウエア(アプリケーション)開発者 184,658 15.2
コンピュータプログラマー 108,367 8.9
コンピュータ関連職(その他) 101,213 8.3
ソフトウエア(システムソフトウエア)開発者 77,823 6.4
マネジメントアナリスト 58,305 4.8
会計士、監査人 52,541 4.3
金融アナリスト 23,431 1.9
オペレーションズリサーチアナリスト 19,339 1.6
電気工学エンジニア(コンピュータ関連以外) 18,662 1.5

(出所)労働省外国人労働証明室(FLC)

表3 LCA承認件数上位10社(2016年度)(単位:人、%)
企業名 件数 構成比
デロイトコンサルティング 122,384 10.1
コグニザント・テクノロジー・ソリューションズU.S. 97,509 8.0
キャップジェミニ・アメリカ 43,864 3.6
プライスウォーターハウスクーパース(PwC) 33,311 2.7
ウィプロ 32,251 2.7
デロイトトウシュ 29,311 2.4
インフォシス 25,326 2.1
アップル 23,096 1.9
PwCアドバイザリー・サービシズ 20,932 1.7
タタ・コンサルタンシー・サービシズ 17,116 1.4

(出所)表2に同じ

このような実態から、H-1Bビザ制度が変更された場合、外国人材を多く活用するコンサルティング企業やIT関連企業、とりわけインド系のITサービス企業への影響が大きいといわれている。日本人のH-1Bビザ保有者のシェアは相対的に低いものの、H-1Bビザを活用して外国人材を登用している日本企業にも影響が及ぶ可能性はある。

ただし、企業の給与水準によっては、ビザ取得が容易になる場合もある。高い給与条件を提示する米国大手IT企業などにとっては、抽選によって無作為に選ばれるよりも、高給者に優先的にビザが発給される方が、ビザの取得確率が高まる。高給とされる給与水準は明らかになってないが、ここから漏れる企業は、将来的に給与水準の見直しや人事政策の変更を迫られる可能性がある。

雇用主は包括的に移民法令を順守することが不可欠

H-1Bビザ制度については、大統領令に先駆け、関係当局によって同大統領令と整合的な制度改革に向けて、幾つかの措置が既に行われている。

まず、米国移民局(USCIS)は3月3日、H-1Bビザ申請の特急申請サービス(追加料金を支払うことで通常6~9ヵ月程度を要する審査期間を15日に短縮できる制度)の一時停止を発表した(2017年3月10日記事参照)。その後、3月31日には、準学士号(2年制大学を終了した際に得られる学位)のみを卒業要件とする初級レベルのコンピュータプログラマー職をH-1Bビザの適用外とし、また、雇用主は採用ポストが移民法に規定される要件を満たす専門職であることを立証するための証拠書類を提出する必要がある点などを周知する内部通達を行った。

また、労働省、司法省およびUSCISは4月3日、2018年度H-1Bビザ申請の開始に合わせて、同ビザ申請の不正防止に向けた執行強化を発表した。労働省は具体的な措置として、査察の強化やLCAの透明性確保に向けた手続き変更の検討などを発表した。司法省は同ビザ申請を行う雇用者に対して、雇用や解雇の際に同ビザ保有者と米国人労働者を差別しないよう警告を発した。USCISは不正防止策として、(1)公開データから会社の事業内容が確認できない場合、(2)雇用者の同ビザ保有者に対する依存度が高い場合、(3)同ビザ保有者が社外の企業や機関で業務に従事している場合、集中して現地査察に取り組む旨を発表した。

前出のフラゴメンの記事では、このような状況を踏まえ、大統領令が現行規定の下での移民法の執行を強化する現政権の決意を繰り返し言及している点を紹介し、「雇用主は移民法を包括的に順守することが不可欠だ」と指摘している。

移民法に詳しい米総合法律事務所RBLパートナーズのボアズ麗奈弁護士は「今回の大統領令はH-1Bビザに限らず、他の雇用ベースの移民制度の変更について言及されている。現時点でその具体的な内容が明かされているわけではないが、他のビザ制度に関しても厳格化される可能性は高い」と指摘している。今回の大統領令に伴う移民制度の変更がH-1Bビザに限らず、米国に進出する日本企業の多くが利用するEビザ(投資駐在員・貿易駐在員ビザ)やLビザ(企業内転勤者ビザ)に将来的に波及した場合は、大きな影響が懸念される。

(渡辺謙二郎)

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