深セン市、最低賃金を月額で4.9%引き上げ-2年ぶり改定もCPI上昇率をわずかに上回る水準-

(中国)

広州発

2017年04月18日

 深セン市政府は、6月1日に最低賃金を改定し、月額2,130元(約3万4,080円、1元=約16円)、時給19.5元に引き上げる。2015年3月以来の改定で、上昇率は月額4.9%、時給5.4%と、この2年間の消費者物価指数(CPI)上昇率をわずかに上回る程度にとどまった。

6月から施行、時給は5.4%アップ

深セン市政府は、最低賃金を改定し、フルタイム労働者の月額を2,130元、パートタイム労働者の時給を19.5元にすると発表した。6月1日に施行され、月額で4.9%、時給で5.4%上昇する。最低賃金水準を順守しない企業には当局が指導を行い、改善されない場合は3万元以上5万元以下の罰金が科される。

深セン市関係者は今回の最低賃金の引き上げについて、労働者にとっては「発展の成果を市民全体に行きわたらせ、幸福水準を高めることになる」とし、企業にとっては「技術イノベーション能力とコア競争力を高める助けになる」とした。同時に「供給側の構造改革の精神により、穏当で慎重な方式を取ることで、最大限企業の受け入れ可能な水準に配慮し、企業負担の軽減についても考慮している」とした(「深セン特区報」4月1日)。

市政府は人件費上昇に抑制的

広東省ではここ10年で最低賃金が2~2.5倍(注)となるなど、急激な人件費上昇が企業にとって大きな経営課題となっている。近年は政府側も過度な人件費上昇は企業の競争力をそぐとして、最低賃金の引き上げに抑制的な姿勢を取り始めている。

広東省(深セン市を除く)では企業のコスト削減を支援する観点から、2016年2月に「広東省供給サイド構造改革のコスト削減行動計画(2016~2018年)」を発布、2016年、2017年の最低賃金を2015年の水準に据え置くとした。さらに、2017年3月には「広東省実体経済企業のコスト低減工作方案」を発布し、最低賃金水準の改定を「少なくとも2年に1回」から「原則的に少なくとも3年に1回」に変更した(2017年3月22日記事参照)。

こうした動きを受け、深セン市の対応にも変化がみられる。2004年に制定された「深セン市従業員給与支払い条例」では、最低賃金水準は「少なくとも1年に1回改定する」とされていた。その後、2009年にはリーマン・ショックなどによる企業の経営悪化を考慮し、「少なくとも2年に1回改定する」と改正されたものの、最低賃金は2010年から2015年まで毎年改定され、ほとんどの年で2桁の上昇率だった(表1参照)。

しかし、2016年は大きな経済危機は発生していないにもかかわらず、7年ぶりに改定を見送った。今回の改定は2年ぶりであるにもかかわらず、上昇率は従来に比べ大幅に低くなっており、今後も人件費上昇を抑制する方針が続くとみられている。

表1 深セン市の最低賃金水準の推移

実質賃金の水準を維持する狙い

また、今回の上昇率は2015~2016年の消費者物価指数(CPI)上昇率の合計をわずかに上回る水準にとどまっており、実質賃金の水準を維持する意図があると考えられる(表2参照)。一方、2015年まで、最低賃金の上昇率が参考とされた前年のCPI上昇率を10%程度上回っていたのは、労働者の生活水準向上に主眼が置かれていたことによるとみられる。

表2 深セン市のCPI上昇率の推移(前年比)

最低賃金で労働者を雇用している在深セン市日系企業は少ないため、直接的な影響は限定的だ。しかし、a.最低賃金の引き上げに便乗したかたちで同程度の賃上げを要求される、b.失業保険の計算のベースが上がることにより企業負担が増加する、ことなどが企業にとってコストアップ要因となり得るとみられる。

(注)広東省では各市を第1類~第4類に分類しており、それぞれ最低賃金水準が異なる。また、深セン市は広東省とは別に最低賃金水準を決めている。

(河野円洋)

(中国)

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