EU、離脱交渉ガイドラインの原案を公表-英国の債務支払いを通商交渉の条件に-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年04月03日

 欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長は3月31日、英国政府との離脱交渉ガイドラインの原案をEU27ヵ国の首脳に提示した。英国における「EU市民の権利保全」や「EU法の継続性確保」、「北アイルランド国境問題への柔軟な対応」などに加え、推定600億ユーロとされる「英国の(EUに対する)債務履行」も最優先課題とした。さらに、英国が想定している全課題の並行交渉を否定し、債務支払いなど第1段階の問題が解決した後に、通商交渉などの協議に進むといった段階的アプローチを採用することを明らかにした。

交渉期間は「2年しかない」と強調

欧州理事会のトゥスク常任議長は3月31日、2017年上半期のEU議長国を務めているマルタの首都バレッタで記者会見を開き、英国政府が3月29日に行った「EU離脱通知」(2017年3月30日記事参照)を念頭に、今後のEUとしての交渉ガイドラインの原案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。

トゥスク常任議長は英国を除くEU27ヵ国の首脳にガイドラインの原案を提示し、「英国のEU離脱決定に伴う不透明感や混乱が、EU加盟国や企業、EU市民に及ぼす悪影響を最小限に抑えることがわれわれの責務だ」と語り、EUとしてはもっぱら「ダメージコントロール」を優先する考えを示した。また、交渉期間は「2年しかない」とあらためて強調、事務作業を迅速に進めているとした。

4つの課題を第1段階で交渉

また、ガイドラインの原案ではEUとして取り組む優先課題として、まず「英国で生活(就労・就学など)するEU市民の権利保全」を挙げ、英国のEU離脱以降もEU市民のステータスが保障されることを目指すとしている。この前提として、互恵・無差別の原則の下、EU域内の英国市民のステータスについても保障する考えを示した。

続いて、「英国のEU離脱以降はEU法が英国に適用されなくなる」との前提から、英国で事業活動を行う企業が「法的空白(legal vacuum)」に直面する事態は避けなければならないと指摘。これまで英国を含めたEU域内で事業を行ってきた企業が混乱しないよう、可能な限り法的継続性に留意するとした。

3番目に、「英国はEU加盟国として順守すべき全ての予算上の取り決めと責務を尊重することを明確にする必要がある」ことを強調した。具体的には、英国が合意している「EU予算に対する拠出金(の未払い金)」や「EU職員に対する年金給付」など、600億ユーロPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(推定)と見積もられている債務を示唆しているとみられ、「英国が支払うべき債務を支払えば、EU側が負うべき債務の支払いにも応ずる」と述べた。

4番目は「英国(北アイルランド)とアイルランドの国境問題」についてで、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきとの方針を示した。かつて紛争地域だった北アイルランドについては、一般論ではなく、和平プロセス支援の視点で処理すべきというのがEUのスタンスだ。

トゥスク常任議長はこれら4つの課題に交渉の第1段階として取り組むとの考えを示した。

英国の主張する並行交渉は否定

しかし、交渉の進め方についてトゥスク常任議長はEUの厳しい姿勢を示し、「英国側が主張していた、全ての課題を論議する並行交渉の形式は取らない」ことを明言した。これは債務の支払いに英国政府が応じない場合は、英国が望むEUとの通商交渉に着手できないことを意味している。交渉の主導権はあくまでEU側にあるとの姿勢を示唆したものだ。

トゥスク常任議長は記者会見の最後に、「交渉は複雑かつ困難で、対立することもあるかもしれない。これは避けられないことだ。ただ、EU27ヵ国は(英国に)制裁を科そうとしているわけではない」と語り、「英国がEU離脱を決めたこと自体が、(英国にとって)十分過ぎる処罰だ」とした。

交渉ガイドラインの原案は2017年4月29日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに予定されている27ヵ国による特別欧州理事会(EU首脳会議)で審議・採択される見通しだが、トゥスク常任議長はその前に英国を訪問し、テレーザ・メイ首相と意見交換を行うとしている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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