英政府、EU離脱を正式通知

(英国、EU)

ロンドン発

2017年03月30日

 英国政府は3月29日、EU離脱をEU側に正式通知した。離脱交渉は原則2年と定められているが、離脱後の新たな英・EU関係についてはどのような交渉になるか不透明で、交渉が終了する時期についても見通せない。英国にとって困難な交渉が始まることとなった。

<「英国民の意思を実行に移す」>

 離脱通知 はティム・バロー駐EU大使が、欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長に手交するかたちで行われた。離脱通知では、2016年6月23日に実施された国民投票や2017年3月13日に議会の承認を得たEU離脱通知法案などの経緯に触れた上で、「英国民の意思を実行に移すもの」と述べている。

 

 EU離脱に係る英国の交渉体制にも触れており、連合王国を構成する各政府などの利益を考慮しつつも、一貫して「1つの」英国政府として交渉に臨むという考え方を示した。スコットランドでは、英国からの独立を問う2度目の住民投票の実施に向けて自治政府のニコラ・スタージョン首相が英国政府と交渉することを議会が承認したり、北アイルランドでも議会運営が混乱したりするなど連合王国の枠組みに暗雲が立ち込める中、連合王国が一丸となって交渉に当たる意思を強調した格好だ。

 

 離脱通知では、今後の交渉において配慮すべき7つの原則についても提言している。まず、協力の精神の重要性だ。例えば、単一市場への参加を断念するという英国の考え方は、単一市場へのアクセスは人・モノ・資本・サービスの4つの移動の受け入れを原則とするというEU側の主張に配慮したもので、協力の精神のたまものとしている。2つ目が国民を第一に考えることで、英国在住のEU加盟国民やEU加盟国在住の英国民の権利について早期に合意を図るべきだとしている。

 

<離脱と新たな関係の並行交渉を重ねて主張>

 3つ目が新たな包括的関係性の構築だ。EU離脱後の両者の関係は、経済や安全保障面での協力を含めた包括的なものとすべきで、離脱交渉と並行して協議することが必要としている。この並行交渉の必要性については通知文書で再三触れている。政府はかねてから、2年間を原則とする交渉期間中に新たな関係についても合意を得るべく早期交渉入りを主張しており、ここでもその意欲を示したといえる。

 

 4つ目として、移行期間の設定などにより投資環境やビジネス環境の不確実性を極力取り除くこと、5つ目としては、英国が唯一陸上で国境を接するアイルランドとの関係性について、とりわけ北アイルランド和平問題の観点から配慮することを、それぞれ訴えている。

 

 6つ目は、詳細な技術的議論の早期開始とこれらの優先順位付けだ。英国としては将来EUと大胆かつ野心的な自由貿易協定(FTA)を締結することを望んでおり、これには金融サービス分野やネットワーク産業までを対象とすることを念頭に置いている。実現には詳細な技術的な交渉も必要になるが、現段階でEU加盟国である英国と他の加盟国との間では既に規制枠組みや標準に準拠しており、このような現状をベースに優先順位を付けて検討を進めることを提唱している。

 

 最後の7つ目として、自由や民主主義といった欧州各国が共有する価値観に基づき世界をリードすることがうたわれた。

 

 テレーザ・メイ首相はEU離脱の通知後、議会で演説を行った。離脱通知で示した7つの原則についての考え方をあらためて説明したほか、EU離脱は英国民自身が立ち止まってこの国の将来を考える機会だ、とその意義を強調した。そして、英国がより強く公平で、団結を強め、傑出した国となること、安全で繁栄を謳歌(おうか)する寛容な国となることを希求するとし、EU離脱を契機に、欧州のパートナーにとっての良き友人であるだけでなく、欧州を超えて雄飛する真のグローバル国家となると語った。

 

(佐藤央樹)

(英国、EU)

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