多角的な情報分析で早めの対処が必要-「英国のEU離脱と日本企業への影響」セミナー開催-

(英国、EU)

欧州ロシアCIS課

2017年04月21日

 ジェトロは3月23、24日に、「英国のEU離脱と日本企業への影響」セミナーを大阪、東京で開催した。両会場でそれぞれ3人の講師が、英国のEU離脱(ブレグジット)による日本企業への影響について、英国の産業界の声や日本企業へのアンケート結果を踏まえて、為替や経済動向などの各側面から解説した。

<離脱交渉の進め方とスコットランドの動向に注目>

 「英国から見たブレグジットの最新動向と今後の展開」のテーマで講演したジェトロ・ロンドン事務所の坂口利彦所長は両会場で、1月17日にテレーザ・メイ首相が明らかにした英国政府のEU離脱交渉方針(2017年1月18日記事参照)に対する産業界の反応を紹介した。英国はEUの単一市場と関税同盟から脱退し、新たな自由貿易協定(FTA)を原則2年間の離脱交渉期間に構築することを志向しているものの、「悪い合意よりも合意なしの方が良い」と明言したことについては、「産業界にとっては、合意なしはWTOルールに依拠することになるため最悪のケース。英国政府の立場では、600億ユーロと見積もられているEU予算に対する拠出金の支払い問題や、移民の管理権限における有利な条件の獲得も重要なため、EUとの交渉促進のためのせりふともいえる」と指摘した。今後の離脱交渉においては、英国が希望する離脱交渉とFTA交渉が同時並行になるのか、EUが主張する離脱交渉の完了後にFTA交渉が行われることになるのか、また英国からの離脱を問う2回目の住民投票実施を志向するスコットランドとどう調整をしていくか、の2点が特に注目されるとした。

 

 さらに、「影響の大きい産業では2年後に暫定協定なしでWTOルールに依拠することになる『クリフエッジ(崖っぷち)』への備えを始めており、金融業を中心に移転検討先の国当局と既に接触しているところもある。多角的な情報分析を基に、自社の置かれた環境を考えて対処してほしい。英国政府の支援が必要であれば、日本政府やジェトロ、業界団体などを通じて要求してほしい」と呼び掛けた。

 

<欧州委の交渉権限範囲と英国の方針に注視を>

 また、「ブレグジットに向けた日本企業の課題と在欧日系企業を取り巻く環境」をテーマに両会場で講演したジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課の田中晋課長は、2016年9月に日本政府が発表した英国政府への要望事項を分析し、「英国が独自に決められるものは限られており、今後のEUとの交渉によるものが多い。今後発表される、欧州委員会に付与される交渉権限の範囲などもみつつ、英国の方針と合わせて対応を検討していく必要がある」と解説した。

 

 さらに、ジェトロが在欧州日系企業に対して2016年9~10月に実施した調査結果を紹介。今後1~2年の事業展開の方向性などについては英国のEU離脱の影響はまだ限定的だが、2017年の営業利益見通しでは前年より「改善」と回答した在英日系企業の割合が、2016年の営業利益見通しと比べて、9.1ポイント低下した。また、今後1~2年の事業展開の方向性で「拡大」と回答した企業について、具体的に拡大する機能で「地域統括機能」を選択した在英日系企業の割合は2015年調査の18.6%から8.7%に、「研究開発機能」を選択した在英日系製造業の割合は30.8%から17.8%に縮小しており、一部に英国のEU離脱の影響が表れ始めているとした。

 

<ブレグジットの恩恵を受けるのは欧州大陸ではなくニューヨークか>

 大阪セミナーでは、みずほ銀行国際為替部の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストが「ブレグジット後の英国経済・金融・為替の見通し」のテーマで講演した。EU離脱が国際金融センターのシティへ与える影響について、「ユーロ建て決済のほか、ロシア・中東・アフリカなどとの金融取引のハブとして機能しており、会計士や弁護士といった周辺サービスは欧州大陸が代替にならないとの声を関係者から多く聞く。グローバル金融センター指数や外国銀行の集積状況などを考慮しても、シティはグローバル金融センターとして揺るぎない地位を確保している」とし、「シティから移転して欧州大陸に別に拠点を設置すると、欧州で複数拠点を持つことになり管理費が増加する。このため、ブレグジットで最大の恩恵を受けるのは、ロンドンに次ぐ国際金融センターであるニューヨークではないか」と指摘した。

 

 英国のEU離脱に関連して日本企業の関心が高い為替の動向については、「(下落が続くため)ポンドは買えないというのは、為替市場で過去2年間のコンセンサス(合意)だった。米国連邦準備制度理事会(FRB)の政策正常化が続く限り下落は続くが、3月16日のイングランド銀行の金融政策委員会で一部委員から利上げが主張されており、流れが変わるかに注目が集まる」とコメントした。ユーロに関しては「ユーロ(圏)は、2013年以降世界最大の経常黒字を記録しており、実質金利は堅調。ドイツにとってユーロは永遠の割安通貨であり、欧州中央銀行(ECB)が他のユーロ導入国に配慮せざるを得ず、引き締めたくてもできないのが問題」とし、ドルについては「ドル高は直近3年続いており、トランプ政権とは切り離して考えるべきだ。FRB以外の中銀が利上げをできるようになるまでは、この状況は続くだろう」と解説した。

 

<移行協定が結ばれればポンド・ショックは回避の見込み>

 東京セミナーでは、ニッセイ基礎研究所・経済研究部の伊藤さゆり上席研究員が「英国・ユーロ圏経済・為替の見通し」のテーマで講演した。EU離脱後の英国経済について、「ロンドン五輪(2012年)以降、景気回復が定着しているものの、購買担当者指数(PMI)ではドイツやユーロ圏と比べ慎重な傾向にある。景気拡大傾向は変わらないが、そのペースが落ち着いてきている」と解説した。英国経済が好調な背景として「ポンド安が緩衝材として働いた側面もあるが、雇用情勢や所得の回復が大きい。特に過去3年間はエネルギー価格の下落により、実質所得の押し上げで個人消費が堅調だった」と分析。実質固定資本投資については、「世界金融危機以降、投資が伸びないのが世界共通の課題だった。英国も、ドイツと比べここのところ投資の伸びに弾みがつかないが、想定されたほどEU離脱の選択による経済の悪化はなかった」とした。

 

 今後の英国の経済見通しについては、離脱交渉に伴う不確実性による、EUを視野に入れた対英投資の様子見や、ポンド安が財貿易赤字の英国にとってはインフレ圧力となることなどから、鈍化が見込まれるとした。ポンド相場については、「EUとの離脱交渉で移行協定が結ばれることになれば、ポンド・ショックのような事態は避けられるだろう。一方、ポンド相場についても、ユーロ相場についても影の主役は米ドルで、FRBの利上げ見通しやトランプ政権の政策によるドル高要因などが影響する」とコメントした。

 

 なお、大阪と東京のセミナーでは、英国総領事館のステファン・ベングトソン首席対英投資担当官と、駐日英国大使館のジョナサン・ジュートムソン一等書記官がそれぞれあいさつをし、「EUから離脱しても、英国は外向きの国であり続け、域外国とFTAを締結すべく交渉していく。日本を重要国として優先的に対応する。EU加盟国である間は、日EU経済連携協定(EPA)の早期締結を目指す」と、日英関係の強化に意欲を示した。

 

(注)本稿は3月23、24日時点の情報に基づき、執筆したもの。

 

(深谷薫)

(英国、EU)

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