人材派遣を利用する企業に追加税務情報の提出義務-中南米の制度改定動向-

(メキシコ)

米州課

2017年03月27日

 メキシコ国税庁(SAT)は1月31日、2017年の税制改正で人材派遣サービスを利用する企業に求められることになった、所得税(ISR)や付加価値税(IVA)の追加情報の受け付けを4月から開始すると発表した。企業側は、派遣会社から派遣社員の給与支払証明書などを取り寄せ、提出する必要がある。

<2017年の税制改正で導入、4月から受け付け>

 今回の制度は2017年の税制改正において、個人所得税や社会保険負担金を支払わない違法な人材派遣会社の取り締まりや、そのような会社を通じて税金や社会保険負担金の支払いを回避する企業の違法行為を防止する目的で、ISR法やIVA法に盛り込まれた。

 

 ISRに関しては、2016年11月30日付官報で公示された改正ISR法第27条Vで、法人の損金算入の要件として、人材派遣会社を利用している場合は以下の書類のコピーを派遣会社から取り寄せる必要があると規定し、派遣会社にも派遣先からの要請に応じてコピーを提供する義務を課した。

 

(1)派遣社員に対して給与が支払われたことを証明する書類

(2)派遣社員の個人所得税の源泉徴収・支払証明書

(3)派遣社員の社会保険負担金(雇用主および被雇用者負担分)の支払証明書

(4)個人所得税および社会保険負担金の申告納税受領書(当局発行のもの)

 

 IVAについても、同日付官報で公示された改正IVA法第5条IIで、人材派遣サービスを利用する企業に対し、支払ったIVAを仮払いIVA(注)に計上するための要件として、派遣会社による当該IVAの申告納税証明書のコピーとSATの受領書のコピーを取り寄せる義務を課した。同時に派遣会社に対しても、同IVAの納税を行った同じ月に派遣先の企業に当該文書のコピーを提供する義務を課している。さらにIVA法32条VIIIを改定し、派遣会社に対して派遣先ごとに詳細なIVAの徴収と納税に関する情報をSATに提出することを求めている。

 

<SAT指定のシステムを通じて提出>

 SATは1月31日、ウェブサイト上で2017年の税務細則の第1次改定草案を公表し、人材派遣会社を利用した場合のISRとIVAの納税に関する追加情報の提供を4月から開始することを明らかにした。公表された2017年の税務細則(案)3.3.1.14は、派遣先および派遣元が、SATが後日公表する所定のシステムを通じて、2017年1~3月分の情報について4月にSATに提出することを規定している。

 

 SATへの情報提出システムの詳細は未公表だが、情報提出の前提としては、派遣会社が発行する派遣労働者への給与支払電子証明書は「給与に関するインターネットを通じたデジタル税務証明書(CFDI Nomina)」のバージョン1.2.に準じていなければならない。CFDI Nominaは外部業者のサービスを利用して発行することも可能で、バージョン1.2に対応している業者のリストはSATのウェブサイトで確認できる。

 

<信頼できる派遣会社の利用を>

 2016年第4四半期時点で、納税者登録(RFC)も社会保険登録もされていない労働者が就業人口の57.2%に上るメキシコでは、派遣労働者を社会保険登録なしで働かせている違法な派遣会社もあり、税収や社会保険収入に悪影響を及ぼしている。

 

 近年、政府は人材派遣会社に対する取り締まりを強化している。2009年7月には人材派遣会社の社会保険負担逃れに派遣先の企業が連帯責任を負う社会保険法の改正が行われ(2009年7月10日記事参照)、2012年11月末には人材派遣の定義を明確化する労働法の改正も行われた(2012年12月7日記事参照)。この定義に基づき、人材派遣サービスの要件を満たさないサービスについてはIVAの対象取引と認めず、同サービスに関連して支払ったIVAを仮払いIVAとして認めないという判例も2016年4月(公表は7月)に出ている。

 

 今回のISR法とIVA法の改正も違法な人材派遣サービスに対する規制強化の流れの一環で、多くの情報を派遣元と派遣先の双方から提出させることにより、SATが効果的な取り締まりをするために必要な情報を蓄積する狙いがあるとみられる。人材派遣会社のサービスを利用する進出企業は、派遣会社の違法行為について連帯責任を取らされる可能性も否定できないため、タイムリーな情報提供に応じる信頼のおける派遣会社を利用することを心掛けるべきだろう。また、現地で人材派遣サービスを提供する日系企業は、顧客とSATに対する情報提供を怠らないよう留意する必要がある。

 

(注)IVAは商品やサービスの対価に16%を乗じた税額(仮受けIVA)を売り手が買い手から徴収し、同様に財やサービスの仕入れ時に支払った税額(仮払いIVA)を仮受けIVAから控除した上でSATに納める。IVAは月次確定納税で、毎月17日までに前月分の仮受けIVAの合計から仮払いIVAの合計(いずれもキャッシュフローベース)を控除した税額を申告して納税する。設備投資を行った月や輸出などで仮払いIVAが仮受けIVAを上回る場合は、SATに対して還付申請を行うか、翌月以降の連邦税の納付額と相殺処理をすることが可能。

 

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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