一部雇用形態を柔軟化する一方、人材派遣の定義を明確化−労働法改正を公布−

(メキシコ)

メキシコ事務所・中南米課

2012年12月07日

連邦労働法の改正が11月13日、上院を通過し、カルデロン前大統領在任最終日の11月30日に公布された。時間給の概念導入や試用期間設定が認められるなど雇用形態の柔軟化がなされる一方で、人材派遣についての定義が明確化され、一定の制限が設けられた。

<試用期間や時間給の設定が可能に>
従来の労働法体系では原則、雇用期間は無期限で、試用期間の設定は認められなかった。そのため、雇用契約の解除はほとんどのケースが会社都合によるものとみなされる。今回の改正労働法第35条では雇用関係について、「特定作業、特定期間、無期限、一時的期限で定めることができる。また、場合により試用期間または初期研修期間を定めることが可能。明確な取り決めがない場合には、無期限の雇用関係とする」と規定した。

試用期間の設定については、第39条Aに規定された。「無期限雇用の場合、または180日を超える雇用関係の場合、30日以内の試用期間を定め、従業員が必要な条件と知識を備えているか確認することができる」とした。上級管理職ならびに特殊な技術や専門職の場合、180日まで試用期間の延長が可能だ。

試用期間中の待遇は、「その職務の給与、社会保障、福利厚生を享受する」としている。仮に雇用主の判断で、その従業員の適性がないとする場合には、「生産性・教育研修合同委員会」(第153条に定められ、従業員50人以上の企業が設置を義務付けられる)の意見を参考にした上で、雇用主の責任なく雇用関係を解除することができるとしている(第39条A)。

研修制度については、第39条Bに規定される。「従業員が雇用主の指揮・命令の下に業務を提供し、仕事に必要な知識と能力を獲得するもの」とし、期間は、一般労働者3ヵ月、管理職・専門職などは6ヵ月。従業員の享受できる待遇、雇用契約解除要件は試用と同様の規定となっている。

試用、研修いずれの場合も、雇用契約書を締結し、社会保障上の支払い義務も定めておかなければならない。ない場合は無期限契約とみなされる。また、試用、研修期間を連続で定めることにより期間を引き延ばしたりすることも認められず、配置転換があっても再度定めることはできない(第39条D)。

期間雇用に近い形態については、第39条Fに規定された。無期限雇用は原則として継続的でなければならないが、特定業務の遂行や期間的要素の強い労働により断続的となる場合でも無期限雇用形態を取ることができる。つまり雇用形態は無期限(終身)雇用だが、1年のうちの特定の時期や週末のみの労働を条件とした契約が可能になる。この場合、社会保険などは無期限契約の労働者と同等の権利を有することになるが、就業期間に応じたものとなる。

時間給に対する概念は、第83条に規定された。時間給の場合、1日の就業時間(昼間の場合は8時間)を超える時間数の労働契約はできず、また、その給与(例えば1日3時間で契約した場合、3時間分の給与)は1日の最低賃金を下回ってはならないとされる。また、労働法上および社会保険上の権利を享受することができる。

<人材派遣の定義を明確化する一方、一定の制限措置>
第15条には人材派遣制度に関する規定が定められた。同条Aでは、「人材派遣スキームにおける労働」を人材派遣会社が契約先企業の定めた作業標準と監督の下で自らの管理下にある労働者を活用して契約先企業に対する作業やサービスを提供する形態と定義。以下の3つの要件を満たす必要があるとしている。

(1)職場において同一あるいは総体的に類似した業務全体に適用してはならない。
(2)職務の専門性により正当化されなければならない。
(3)契約先企業の労働者と同一または類似の職務であってはならない。

これらの条件を満たさない場合には、契約先企業が雇用主とみなされ、社会保障などの負担義務が発生するとした。

また、同条Dによると、労働に関する諸権利を削減する目的で労働者を意図的に人材派遣会社に移籍させることは罰則の対象となる。第1004条Cに当該罰則が規定され、罰金は最低賃金の250〜5,000倍に相当する。

メキシコで操業する企業には、事業会社に加え1社または複数社の人材派遣会社を設立し、労働者全員を派遣会社に所属させるケースがある。これには、労働者利益分配金(PTU)制度が関係している。PTUは、課税所得に一定の調整を加えた税引き前利益の10%を従業員に分配する制度。労働者を人材派遣会社側に所属させることでPTUの分配原資を一定額に節減するスキームだ。

しかし、第15条にみられるように、職場の労働者の100%を人材会社から調達することや、類似の生産ラインで一部は正規雇用、一部は派遣社員というやり方をすると、契約先企業が雇用主とみなされ、社会保障支払い義務が事業会社側に跳ね返るだけでなく、PTUの支払い義務も事業会社側に発生する可能性が高い。

さらに、第127条IV−BISでは、1企業の事業所で働く者は、PTUの効力において、当該企業の一員となると規定した。当該企業の直接的な被雇用者でなくとも、PTUは分配しなければならないと解される。

ただし、当地専門家の間では人材派遣関連条項の運用について疑問を呈す声も多い。例えば上述の127条IV−BISについては、事業会社が仮にPTUを派遣労働者に支払った場合、人材派遣会社側は所属の派遣労働者に対してPTUを支払わなくてもよいのか、人材派遣会社側も支払うのであれば二重払いではないのかとの指摘があり、条文上では判断不能。また、事業会社と人材派遣会社を1つの経済活動主体として解釈したとしても、連結でのPTU計算基礎がどうなるかは労働法には記載がなく、今後の税制マターとなるため、法的根拠にのっとったPTU算出もできない。

当地の労働法制においては、法律条文の解釈上で疑問が生じた場合、労働者に最も有利な解釈がなされなければならない(労働法第18条)という原則がある。改正労働法施行後間もなくで、解釈に不明点も多いが、進出企業は自社の状況を踏まえて個別に専門家と検討する必要があるだろう。

(中島伸浩、中畑貴雄)

(メキシコ)

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