欧州議会、紛争鉱物資源に関する規則案を採択-在欧日系企業の見方-

(EU、米国)

ブリュッセル発

2017年03月31日

 欧州議会は3月16日、「紛争鉱物資源に関する規則案」を採択した。今後、EU理事会で承認された後に、2021年1月1日から適用される見通し。在欧州日系企業の団体である在欧日系ビジネス協議会(JBCE)と、IT・エレクトロニクス分野の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)は、同規則案を歓迎する共同声明を発表した。日系企業に与える影響と今後の規制の方向性について、JBCEのポリシーマネジャー常深良太氏に聞いた(3月16日)。

<企業の対応に関する情報開示圧力が高まる見込み>

 紛争鉱物資源(conflict minerals)は、スズ、タンタル、タングステン、金を指し、一般的に英語の頭文字をとって「3TG」と呼ばれている。EUでは長らく、原産国で強制労働や人権侵害の原因、紛争の資金源になっている紛争鉱物資源の域内への輸入などに関する規制について検討されてきた。欧州委員会は2014年に「紛争鉱物資源に関する規則案」を発表し、欧州理事会および欧州議会との協議を経て、2016年11月に非公式な合意に達していた(2016年12月20日記事参照)。今回、欧州議会で採択された同規則案は、EU理事会で承認された後、2021年1月1日から適用される見通しだ。

 

 同規則案は、紛争鉱物資源の鉱石や金属を「紛争地域および高リスク地域」から調達するEUの精錬事業者や輸入事業者に対し、調達する鉱物資源が紛争や人権侵害を助長していないことを確認する事前調査(デューデリジェンス)の実施を義務付けるが、最終製品をEUで製造・販売する、いわゆる川下企業は対象外となっている。

 

 常深氏によると、一方で、「コンフリクト・フリー」(紛争と無縁)であることを付加価値として利用する川下企業も出てきているという。例えば、販売する半導体についてコンフリクト・フリーをうたっているインテルで、その背景として、一定規模以上の企業に非財務情報の開示を求める「非財務情報開示指令」が影響していそうだ。欧州委は2014年に発表された非財務情報開示指令を実施するに当たり、組織の目標を達成するために重要な業績評価の指標である「重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)」を含む非財務情報開示の方法論に関するガイドラインを作成している(2014年3月13日記事参照)。

 

 このガイドラインには法的拘束力はないものの、KPIに紛争鉱物資源に関するデューデリジェンスを実施しているサプライヤーのパーセンテージなど、紛争鉱物資源に関連した項目を含めることも検討されているという。このようなKPIが設定された場合、サプライチェーンにおける企業の調達行動や、企業による消費者、非営利組織、投資家など利害関係者とのコミュニケーションに影響が出ることで、企業の競争力に影響を与える可能性があるという。

 

 また欧州委は、今回の規則案の適用に合わせて、デューデリジェンスに対する企業の取り組みを任意で報告できるデータベースを整備する意向を示している。このため今後、欧州においては、企業に対し紛争鉱物資源への対応に関する情報開示を促す圧力が高まっていくとみられており、注意が必要だ。

 

 こうしたことを念頭に、欧州でビジネスを展開する日系企業も今後、紛争鉱物資源への対応に係る情報開示に取り組まなければならない可能性があるという。JBCEJEITA共同声明は、今回の規則案で求められるデューデリジェンスが、既に国際的に確立したOECDのデューデリジェンスに関するガイドラインで定められた原則やプロセスに基づくものであることを歓迎するとともに、適用対象を3TGに絞り、リサイクルされた金属を対象外とした点を評価している。

 

<米国とは適用対象地域が異なる点に留意>

 米国では、2010年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の「紛争鉱物資源条項」で、コンゴ民主共和国(旧ザイール)および周辺国・地域で生産される3TGを使った製品を生産する企業を対象として、米国証券取引委員会(SEC)に登録・報告することが求められている(2011年8月26日記事参照)。

 

 このため、米国企業と取引のある日系企業の多くは、米国の紛争鉱物資源に関する規制に沿って対応しているのが現状だ。一方で、今回のEUの規則案については、規制の対象地域が米国の規制と同じでない点が問題だ。欧州委は近々、対象地域に関する手引書を発表する予定であるものの、手引書に含まれる国・地域は網羅的でなく、明確に限定していないという。対象地域に関しては、欧州委以外の外部組織もリスト作成に取り掛かっており、JBCEとJEITAの共同声明では、こういった複数のイニシアチブがいかに整合性を保つのか、さらなる明確化を欧州委に求めている。

 

<EUが規制のフロントランナーになる可能性も>

 EUに先駆けて紛争鉱物に関する規制を導入した米国では、SECが2017年1月31日に「紛争鉱物資源条項」の見直しを検討する、との声明を発表した。米国の規制見直しの方向性によっては、今まで紛争鉱物資源の規制をリードしてきた米国に代わり、EUが規制の中心になる、との見方がある。

 

 EUの規則案では、運用開始2年後、その後は3年ごとに、規則の実効性について検証し、必要であれば見直しを行うとしている。将来的には、見直しによって、(1)最終製品を生産する川下企業にも義務が拡大される、(2)コバルトなど新たに対象鉱物が追加される、といったように規制が強化される可能性も否定できないことに注意していく必要がある。

 

(積田北辰、大中登紀子)

(EU、米国)

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