紛争鉱物資源規則案に欧州理事会と欧州議会が非公式合意

(EU)

ブリュッセル発

2016年12月20日

 欧州理事会と欧州議会は11月22日、「紛争鉱物資源に関する規則案」について、非公式合意に達した。紛争地域・高リスク地域からの鉱石・金属調達について、デューデリジェンス実施を義務付けるなど、2014年の当初案よりも規制が強化された。同案は12月7日の常任代表委員会(COREPER、大使級会合)で審議されており、2017年前半にEU理事会の担当相会合と欧州議会で承認され、2021年から適用される見通しだ。

<対象地域リストは非網羅的になる見込み>

 同規則案における「紛争鉱物資源(conflict minerals)」とはスズやタンタル、タングステン、金を指し、携帯電話や自動車、宝飾品など身近な製品にも使われている。紛争地域で採掘されるこれらの鉱物資源は武装集団の資金源となり、紛争の激化・長期化を招き、武装集団による強制労働や人権侵害の原因になるとして、問題視されていた。

 

 欧州委員会は20143月に規則の当初案を発表し、EUの輸入事業者を対象に、紛争鉱物資源の調達が紛争や人権侵害を助長していないことを確認するデューデリジェンス(商行為において企業が行う事前調査)に関する任意の自己認証制度の導入を提案していた(2014年3月14日記事参照)。しかし、一部政党や市民団体などから、紛争鉱物資源のサプライチェーンの全企業がデューデリジェンスを順守すべきだなどと、より実効性の高い規制を求める声が上がっていた。

 

 今回の規則案では、紛争鉱物資源の鉱石もしくは金属を「紛争地域および高リスク地域」から調達するEUの製錬事業者や輸入事業者に対して、デューデリジェンスの実施が義務付けられた。「紛争地域および高リスク地域」は、企業支援を目的に欧州委が作成する手引書に含まれる予定だ。ただし、この手引書に含まれるリストは非網羅的であり、リストに含まれていない地域から紛争鉱物資源を調達する企業にも、この規定が適用される可能性があるため、注意が必要だ。

 

<リサイクルされた金属などは対象外に>

 一方、歯科や宝飾品用途など、少量を輸入する場合は、デューデリジェンスの適用対象外となる。「少量」の基準は201612月現在、明らかにされていないが、紛争鉱物資源の輸入全体の95%が本規則の対象となる見込みだ。また、リサイクルされた金属や、EU域内に現存する在庫、副産品として生産される紛争鉱物資源は規則の適用対象外となる。

 

 デューデリジェンスは、OECDのサプライチェーンにおけるデューデリジェンスのガイドラインに基づいて実施する。企業は、デューデリジェンスの義務を履行していることを加盟国の当局に文書で届け出ることにより、「責任ある輸入事業者」の認定を受けることができる。欧州委はこの「責任ある輸入事業者」のリストを公開する計画だ。加盟国の当局は、自国内の企業のデューデリジェンスの実施状況を監視する。

 

 また同規則案は、企業に対する二重の負担を避けるため、産業界の既存のデューデリジェンス制度の利用も認めるが、これらの制度がOECDのガイドラインの基準を満たしていることが条件となる。

 

<欧州議会内にはさらなる規制強化を求める声も>

 最終製品を製造する企業は、紛争鉱物資源を輸入しない場合、デューデリジェンスの実施義務の対象とはならない。ただし、非財務情報の開示対象となる企業(従業員500人以上)については、欧州委が策定する履行指標に基づく、紛争鉱物資源の調達先の開示が推奨される。欧州委は、企業が任意のデューデリジェンスの取り組みを報告できる、透明性データベースを作成する意向だ。

 

 今回の規則案には見直し条項も盛り込まれ、欧州委は規則の適用開始の2年後を皮切りに、3年ごとに規則の実効性に関する報告を欧州議会と理事会に行う。なお、欧州議会の欧州緑グループ・欧州自由連盟会派は1122日に発表した声明で、最終製品を生産する川下の企業に義務が課されていない点に懸念を表明し、見直し時における法改正の要望を表明した。

 

(村岡有)

(EU)

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