サルマン国王訪日、日本との経済関係強化に期待-東京で「ビジョン2030ビジネスフォーラム」開催-

(サウジアラビア、日本)

中東アフリカ課

2017年03月23日

 サウジアラビアのサルマン国王らの来日の機会を捉え、ジェトロは3月14日、東京で「日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム」を開催した。国王の訪日により、2016年4月に策定された長期成長戦略「サウジアラビア・ビジョン2030」に対して、オールジャパンで協力していく「日・サウジ・ビジョン2030」を政府間で合意。今後は重点9分野をベースに広範な活動が展開される。2部で構成されたビジネスフォーラムには、両国の関係強化に期待するビジネスパーソンなど関係者約650人が参加。サルマン国王も出席し、にぎわいをみせた。

<2016年の副皇太子に続き、46年ぶりの国王訪日>

 最近のサウジアラビアは、2016年9月にムハンマド副皇太子が訪日し、複数の閣僚とともに日本との関係強化に乗り出している(2016年9月15日記事参照)。同国では2014年後半からの原油価格の下落などによる政策転換が求められ、国家最高経済評議会議長でもあるムハンマド副皇太子の陣頭指揮により、2016年4月に斬新とも評される長期国家成長戦略「サウジアラビア・ビジョン2030」を策定。ほぼ同時期に行われた省庁改編とともに、主要国との関係強化を実行中だ。

 

 日本政府もこれに呼応した「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」が2016年10月に発足、ビジョン2030をベースとした協力の在り方が協議されてきたところ、今回のサルマン国王の訪日により「日・サウジ・ビジョン2030」が合意された。この合意により、健康・医療、インフラ、ファイナンス、中小企業交流、エネルギー、文化・スポーツ・教育、娯楽産業などを重点分野とし、必要な規制緩和なども検討しながら、協力強化を進めていく方針だ。

 

<情報通信、医療、エネルギー、交通、住宅分野での投資促進に期待>

 ビジネスフォーラムは2部構成となった。第1部は「サウジ投資セッション」として、サウジアラビア総合投資院(SAGIA)のイニシアチブにより、情報通信、医療、エネルギー、交通、住宅についてサウジ側関係者がプレゼンテーションを実施した。

写真 第1部から盛況に(ジェトロ撮影)

 情報通信分野においては、(1)クラウドサービス、(2)アラビア語のデジタルコンテンツの拡充、(3)eコマース市場の拡大、(4)人工知能・自動化システムの開発、(5)モビリティー(携帯アプリやゲーム開発など)を重点分野とし、日本企業へは、ゲームやeコマースの協力に期待した。現在、サウジアラビアのeコマースの市場規模は68億ドル、普及率は51%で、ゲームへの1人当たり支出額は30ドル(世界平均は9ドル)、ユーチューブ(YouTube)の1人当たり平均利用時間は1日3時間と、この分野の潜在性は高いとした。

 

 エネルギー分野では、国家再生可能エネルギープログラムの下、2023年までに9.5ギガワットの再生可能エネルギーによる発電を目指しているという。これは国家の総電力需要の4%に当たり、官民連携を通じた独立系発電(IPP)事業で開発を進めていく計画を示した。国家再生可能エネルギープログラムでは、エネルギー・産業鉱物資源省のほか、規制当局や国営石油会社サウジアラムコなどがステークホルダーとして関与する予定だ。

 

 交通分野では、交通ネットワークの改善が計画されており、具体的には道路、地下鉄・鉄道、空港、海洋物流のアップグレードなどを進める。道路では1,100キロの新高速道路の建設、また、バスの調達として今後5年間で6万~10万台、バス部品の調達では2030年までに80億ドルの投資を計画している。地下鉄・鉄道では今後800億ドルの投資を予定しており、既存および敷設計画を含めると5,000キロ以上の鉄道網となる予定。空港は国内にある27空港のうち5つの国際空港で整備・補修のビジネス機会があるとした。港湾オペレーションの分野では、人材育成、物流ハブの開発を進めていく計画で、こうした分野への日本企業の投資を期待した。

 

 医療分野では、大きな構造改革がなされるという。これまで医療ビジネスの8割を政府が運営していたところを、医療業務は民間に委譲され、政府は規制当局の役割のみを担うことになる。医療分野の民営化に当たって、仮説を用いて経済合理性について検証している。医療ベッドの生産についても、サウジアラビア国内で生産する場合の経済合理性を試算中だ。この検証の具体的な結果については2~3ヵ月以内に公表できる見込みで、日本企業にもぜひ進出の参考としてほしいと主張した。

 

 住宅分野においては、今後150万戸の新たな住宅の建設を目標とし、この高い目標を達成するため、現行の住宅供給状況の見直しを進めている。現在は住宅を取得するのに80万リヤル(約2,400万円、1リヤル=約30円)以上かかるが、この価格を20万~80万リヤルの範囲に抑えたい意向で、この価格帯なら国民の75~80%が属する所得層にも手が届くようになる。日本の不動産開発業者や技術システム提供会社のサウジアラビアへの投資を期待しており、優遇措置の用意があり、進出手続きも60日以内に完了するという。また、政府が構築している住宅需要データベースの情報も提供することができる。こうした情報を基に、住宅開発への効果的な投資が可能だと紹介した。

 

<第2部には特別にサルマン国王も出席>

 第2部では日本側からは世耕弘成経済産業相が出席し、ジェトロの石毛博行理事長が司会とあいさつ、中東協力センターの中西宏明会長があいさつを行った。サウジ側からはファキーフ経済企画相のほか、複数の国務相や保健相など多くの要人が出席した。民間ベースの協力署名案件(20件)などの紹介後、最後にサルマン国王が特別にフォーラム会場に来場した。国王の前でファキーフ経済企画相は、日本企業誘致のための規制緩和に取り組むとともに、エネルギーにとどまらず、インフラ、農業、中小企業育成、文化・スポーツ、資金調達など多種多様な分野での協力に向けた制度改革や人材育成支援に力を注ぐ旨を発表した。

写真 第2部にはサルマン国王も会場に(ジェトロ撮影)

 世耕経済産業相は「サウジアラビア・ビジョン2030」と日本の「成長戦略」がシナジー効果を発揮し、「日・サウジ・ビジョン2030」が両国の経済関係が深化するための羅針盤となると述べ、さらに、サウジアラビアの経済改革のショーケースとなる経済特区(Enabler Showcase Zone)の設置に関する共同調査や、東京とリヤド双方に「日・サウジ・ビジョン・オフィス」を設置する計画があることを公表した。

写真 スピーチする世耕経済産業相(ジェトロ撮影)

(常味高志)

(サウジアラビア、日本)

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