日本企業の多様な対サウジアラビア投資に期待-「ビジョン2030」ビジネスフォーラムを東京で開催-

(サウジアラビア、日本)

中東アフリカ課

2016年09月15日

 ジェトロは9月1日、サウジアラビアの主要閣僚が来日した機会を捉え、東京都内で「日本サウジアラビア『ビジョン2030』ビジネスフォーラム」を開催した。同セミナーにはアル・カサビー商業・投資相ら、サウジアラビアから閣僚3人と要人2人が登壇し、同国が石油依存から脱するための国家成長戦略「ビジョン2030」の概要を紹介した。日本企業や関係機関などから532人の参加があった。

<日本とサウジの緊密な関係を紹介>

 ジェトロと一般財団法人中東協力センターが共催した今回のフォーラムは、「サウジアラビア・ビジョン2030」がテーマだった。同ビジョンは、フォーラム開催と同時期に来日したムハンマド副皇太子が20164月に発表したサウジアラビアの長期国家戦略で、同国が石油依存から脱却して持続可能な発展を行うための改革目標を示している(2016年5月11日記事参照)。

 

 オープニングセッションでは、ジェトロの石毛博行理事長が開会あいさつで、サウジアラビアは日本の原油輸入の約3割を占め、2015年は国交樹立60周年を迎えるなど深い関係を持つことから、日本としても「ビジョン2030」の実現による同国の安定と繁栄を希望しており、そのために日本企業の技術やジェトロの経験を役立てることも可能、と述べた。

 

 続いて、来賓あいさつの世耕弘成経済産業相が登壇し、日本はサウジアラビアの良きパートナーであり、石油化学だけでなく自動車、水処理、職業訓練など幅広い分野で貢献し、最近では空手、アニメ、和食など日本文化も普及していることから、日本は「ビジョン2030」に新たな分野やファイナンス面でも貢献できる、と語った。

写真1 石毛理事長の開会あいさつ(ジェトロ撮影)

写真2 世耕経済産業相の来賓あいさつ(ジェトロ撮影)

<ライセンス授与や覚書交換などのセレモニーも>

 次のセレモニーセッションではまず、「ビジョン2030」の戦略的パートナーとなり得る26の日本企業・団体の貢献可能分野を掲載した中東協力センター作成の「便覧」(Japanese Strategic Partners for Saudi Vision 2030)を、松永和夫同センター理事長がアル・カサビー商業・投資相に贈呈し、各社代表と一緒に記念撮影も行った。

 

 また、同商業・投資相から石毛ジェトロ理事長に、サウジアラビア総合投資院(SAGIA)がリヤド事務所に新たに発行したライセンスが授与された。ジェトロはこの機会に、SAGIAと新たな協力の覚書(MOU)も締結した。

 

 さらに、この機会に日サ企業・組織間で締結された11件に及ぶMOUの交換式が行われた。太陽光発電、エネルギー効率化、廃棄物発電、産業人材育成、合成樹脂製造、緊急災害時の液化石油ガス(LPG)支援、パイプ製造、ファイナンスなどが対象分野となった。

写真3 セレモニーセッションの記念撮影(ジェトロ撮影)
写真4 SAGIAライセンスをジェトロに授与(ジェトロ撮影)

<多様な分野での日本企業の投資を呼び掛け>

 続いてパネルセッションに入り、一般財団法人日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長をモデレーターとして、アル・ファーレフ・エネルギー・産業鉱物資源相、アル・カサビー商業・投資相、アル・ヒクバーニー労働・社会発展相、アル・ハティーブ娯楽庁長官、アル・ルマイヤーン公共投資基金(PIF)事務局長の5人が登壇(注)。「ビジョン2030」の概要の紹介と、会場からの質問に対する回答を行った。

 

 アル・ファーレフ・エネルギー・産業鉱物資源相は、「ビジョン2030」のキーワードが「多様化」と「民営化」で、GDPの民間部門の貢献比率を40%から65%に上げる目標があることを紹介し、発電や再生可能エネルギーについても独立系発電事業者(IPP)の活用など、今後はなるべく民間に任せる方針と説明した。投資する日本企業には、「現地化」(サウジ人の雇用・教育)への貢献を求めた。

 

 アル・カサビー商業・投資相は「行動が伴うビジョンが大事」とし、そのために戦略的パートナーである日本の投資に期待するとともに、日本の中小企業育成モデルからも学びたいとした。また、小売・流通業への外資100%での進出許可や、内外投資家無差別の原則の適用など、外資のビジネス環境も改善させているところだ、と述べた。

 

 アル・ヒクバーニー労働・社会発展相は、労働・社会分野では失業率の低下、特に女性の社会参加・就労促進が「ビジョン2030」の大きな目標とし、「テレワーク(在宅勤務)」も推進する方針、と語った。また、研修プログラムの充実を図るため、トレーニングの専門家の紹介など日本企業の協力に期待を示した。

 

 アル・ハティーブ娯楽庁長官は、「ビジョン2030」では娯楽活動への個人消費支出をGDPの約3%から6%に増加させる目標があるなど、国民がレジャーに費やす時間を増やす方針で、スポーツ、美術館・博物館、日本が得意とするゲーム産業、テーマパークを振興する方針、と説明した。日本企業には、テーマパーク造成やゲームのアラビア語翻訳、美術館・博物館でのバーチャル・リアリティー技術に期待するとともに、増大する軍事産業への投資も望みたいとした。

 

 アル・ルマイヤーンPIF事務局長は、1971年に設立したPIFは重要な長期プロジェクト向けの基金として、企業約200社の運用資産(総額約2,000億ドル)を持ち、20172018年に国営石油会社サウジアラムコのIPO(新規株式公開)も予定していると紹介した。サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)が韓国と行っているように、対外投資協力にも関心があり、日本とも金融、再生可能エネルギー、製造業などの分野で投資協力に関心があるとした。

 

 最後に閉会あいさつとして、中東協力センターの松永理事長が、「ビジョン2030」の実現に向けて日本企業は戦略的パートナーとして各種のソリューションを提供できることや、今後も両国の協力関係を強化したい旨を述べた。

 

(注)登壇した3人の閣僚に加え、アル・アッサーフ財務相、ファキーフ経済企画相の2人もフォーラムに臨席した。

 

(米倉大輔)

(サウジアラビア、日本)

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