グリンデアヌ新内閣による減税政策が始動-最低賃金は2月1日から引き上げ-

(ルーマニア)

ブカレスト発

2017年02月01日

 1月4日に発足したルーマニアのソリン・グリンデアヌ新内閣が、大幅な減税および給与水準の底上げに着手した。同時に、高所得者層に対する課税強化の方針を打ち出した。ただ、こうした政策に伴う歳入の減少を補う具体的な財源は確保できていない。

<「零細企業」の対象を大幅に拡大>

 付加価値税(VAT)の標準税率は1月1日から、20%から19%に引き下げられた(添付資料参照)。これは前チョロシ内閣時代に既に決定されていたもので、飲食物(アルコールを除く)、レストランサービスなどは9%、書籍やスポーツ観戦などは5%とした減税措置を据え置いた(2016年2月5日記事参照)。

 

 法人税の税率(通常は16%)は、研究開発のみ行う企業について、業務開始当初10年間を免除期間とし、インセンティブとなる。また、既に業務を行っている研究開発企業についても、2017年1月6日から2027年1月6日まで免除措置が適用されることになる。

 

 また、零細企業についての定義および法人税率が変更された。定義については、従来は収益が10万ユーロ相当分のレイ(約1,220万円)とされていたが、今後は50万ユーロ相当分のレイに拡大される。また、これまで2%に減税されてきた法人税については、1人以上の被雇用者を抱える零細企業は1%、被雇用者のいない零細企業は3%に二分された。一方、50万ユーロ超の収益がある、もしくはコンサルティング業務や管理業務が収入の20%を超える零細企業については、通常の税率が義務化される。

 

 年金保険については、雇用者負担分が給与の15.8%、被雇用者負担分が10.5%となっているが、2017年2月以降はその負担額について、「国内平均給与の5倍×各負担率(雇用者15.8%、被雇用者10.5%)を上限」とする従来のルールが撤廃されることになった(官報2017年1月6日第16号)。ただし、個人事業主や知的財産権収入を主とする事業者は除外される。今回のルール撤廃により、基本的に高所得の被雇用者や同被雇用者を抱える雇用者の年金保険の負担額が増加することになるため、進出日本企業やその駐在員にとっても看過できない問題となりそうだ

 

 2016年12月11日の上下両院選挙前に、社会民主党(PSD)のリビウ・ドラグネア党首によって提案された「102の税」廃止法案は2017年1月6日、ヨハニス大統領の署名により成立した。これは、環境スタンプ税、商業登記税、ラジオ・テレビ税(2017年1月25日記事参照)などを含む102の税を撤廃するもので、大統領はこれを違憲だとして憲法裁判所で争ってきたが、結局は同裁判所における12月16日の合憲判断を基に渋々署名した。

 

<歳入減を穴埋めする財源の手当が課題>

 グリンデアヌ新内閣は主に低所得者層の収入増と不法就労排除を目指し、2017年1月6日に法定最低賃金、年金給付の最低額、公務員給与などを引き上げるための法案を閣議決定した。

 

 フルタイムの被雇用者の月額最低賃金(グロス)は2月1日から、現在の1,250レイ(約3万3,750円、レイはレウの複数形、1レウ=約27円)から1,450レイに引き上げられる。今後、2020年までの4年間で1,750レイまで段階的に引き上げる見込みで、違反した雇用主は300~2,000レイの罰金が科せられる。また、年金給付の最低額(月額)は、現在の400レイから2018年までに640レイへの引き上げを目標とし、2017年3月1日からは520レイになる。さらに、公務員給与は20%の引き上げが決定され、一部の年金生活者の免税や医療保険免除、国の文化機関に所属する芸術家(舞台俳優やダンサーなど)の給与の50%引き上げ、大学生の電車通学費の無料化や奨学金手当を2倍にすること、などが盛り込まれた。

 

 グリンデアヌ首相は2017年のGDP成長率について、欧州28ヵ国中トップとなる見通しの2016年(5.0~5.2%の見込み)に引き続き、5.2%が可能と述べた。同首相によると、2017年のGDPは8,150億ユーロを超え、18万人の新規雇用を生み出すことが見込まれるという。一方、ここ3年のルーマニア経済の好調ぶりは主に内需に頼るものだ。低所得者層を中心とした多くの減税・賃金上昇による消費拡大は2017年も継続するとみられるが、新内閣の財源確保のための具体策は不明瞭なままだ。EUでは「財政赤字はGDP比3%以下」というマーストリヒト基準の達成が求められているが、審議中の予算案では2.95~2.99%と、ぎりぎりのラインになっている。ダニエル・コンスタンティン副首相〔自由民主主義同盟(ALDE)共同党首〕は、2018年以後の個人所得税について、一律課税から累進課税に移行するための議論があることを現地メディアの取材で明かしている。政府が今後どのように財源を確保するか注目される。

 

(水野桂輔、アンドレア・ニコレスク)

(ルーマニア)

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