新税法が発効、VAT標準税率が24%から20%に

(ルーマニア)

ブカレスト発

2016年02月05日

 1月から新税法が発効し、付加価値税(VAT)、配当税、間接税などが引き下げられた。経済成長の促進と脱税対策が目的だが、財政赤字を抑えたい政府にとっては、税率引き下げによる税収減への対応が課題となる。

<配当税率は16%から5%に>

 政府は20161月、VAT標準税率を24%から20%に引き下げた(表参照)。20156月に食品と飲料品(アルコールを除く)、レストラン、ケータリングサービスなどにかかるVAT税率は、24%から9%に引き下げられており変更はない(2015年9月16日記事参照)。ただし、9%の軽減税率の適用対象に飲料水と農業用水が1月から加わった。なお、20171月からはVAT標準税率は19%にさらに引き下げられる予定。

 

 新税法では物品税も大半が引き下げられた。主な対象はビール、スパークリングワイン、発酵スパークリング飲料、中間生産物。一方、無炭酸発酵飲料(リンゴ・ナシサイダーや蜂蜜酒を除く)は大幅に引き上げられ、無税だった電子たばこ製品やニコチン入り製品が新たに物品税の適用対象となった。

 

 また、コーヒーやぜいたく品(プラチナ・金製の宝飾品、服飾用の自然毛皮、ヨット、プレジャーボートまたはそのエンジン、3000cc以上のエンジン)、武器と弾薬にかかる物品税が廃止された。ルーマニア非居住者および居住者の配当税(株式などの配当所得にかかる税金)も削減対象となり、16%から5%に引き下げられた。

 

 一方で、地方税は引き上げられ、1月から地方自治体は新税法に定められている地方税率(建物税、土地税、自動車税、公告税など)を引き上げることができる(引き上げ限度は50%)。

<納税プロセスの一層の効率化が必要>

 17日にルーマニア税管理庁(ANAF)は、2015年の税収総額が前年比8%増の1,962億レイ(約56,898億円、レイはレウの複数形、1レウ=約29円)に上ったと発表した。そのうち、VATの納税額が前年比12%増、法人税が13%増、個人所得税が12%増だった。この結果について、財政諮問会議(Fiscal Council)のイオヌツ・ドゥミトゥル議長は、「2015年の納税額は当初の想定を超えたものとなっているが、それには2つの理由が考えられる。1つは予想以上の経済成長、もう1つは納税プロセスが効率化されたこと」と説明している。

 

 一方、2015年の社会保障費の収入は前年比で6%減少したが、その要因は201410月に社会保障費(年金保険)の雇用者負担率が5%ポイント引き下げられたこと(2014年10月3日記事参照)。政府の脱税対策の効果が表れているものの、納税プロセスの効率化を進めるため、ANAFはさらなる課題に対応しなければならない。ドゥミトゥル議長は「まずは電子納付システムを普及させることで、従来型の納付システムを廃止すること。もう1つは政府支出・公共事業の効率化と透明性を向上させること。そういう環境をつくらなければ、納付者自らが税金を支払おうとはしないだろう」と指摘している。

 

<一時的に日用品の売れ行きが好調>

 VAT税率の低減の効果が既にみられる。電池、フライパン、シャンプーのような日用品の市場価格は平均3%下落した(「ジアルル・フィナンチアル」紙15日)。例えば、同紙が調査時に購入した日用品50点の総額は、税率引き下げ前は965.56レイだったが、現在は932.70レイ(約3.4%減)になっている。

 

 税率引き下げにより、一部の小売店では一時的に売れ行きが増加した。デレーズグループ(ベルギー)傘下メガ・イマージュのバシリス・スタブル社長は「VATの引き下げによる消費への影響がすぐにみられた。食品の売れ行きは(VAT引き下げ前と比べて)20%以上増加した」とコメントしている。

 

 なお、201512月に政府が発表した「2016年度の予算、その目標と指針」によると、経済成長の原動力としては2015年と同様に、輸出、消費、投資に加え各種税率の引き下げ(VAT、配当税など)が挙げられている。しかし、これら税率引き下げによる税収減は財政赤字の拡大につながる。今回の税率の引き下げにより、2016年に224,857万ユーロ相当の赤字が生じるため、政府は支出を抑えつつ、民間の消費や投資を活用していく意向だ(2016年1月26日記事参照)

 

(水野桂輔、クリスティナ・ディンカ)

(ルーマニア)

ビジネス短信 cda421a43326447e