税関が事後調査による課税を強化-企業の自己点検が従来以上に重要-

(ベトナム)

ホーチミン発

2017年02月24日

 税関が事後調査による課税を強化している。特に輸出加工企業(EPE)の原材料の実在庫と税関登録在庫との不一致、関税分類・関税評価の正誤に対する指摘が多く、企業側の定期的な自己点検や事前教示制度の活用などが従来以上に重要となっている。税関事後調査の概要について、調査フローや異議申し立ての手順なども含め、近年の事例を交えて説明する。

<事後調査による追徴額、2016年は20.1%増に>

 税関総局によると、2016年の事後調査の追加徴税額は2兆5,940億ドン(約129億7,000万円、1ドン=約0.005円)と、前年比20.1%増加した。主要税関別の徴税額は、ホーチミン税関7,820億ドン、税関総局7,020億ドン、ハイフォン税関3,540億ドン、ドンナイ税関1,610億ドンとなっている(図参照)。

図 事後調査による主要税関別の追徴税額(2016年)

<調査対象期間は登録後5年間>

 税関事後調査では、通関後の一定期間を経て、法令違反がないか輸出入申告書類や帳簿類があらためて点検される。税関書類、会計証憑(しょうひょう)書類、船荷関連書類、申告データなどについて、税関法および輸出入関連法などが順守されているか税関が確認する。具体的な確認事項は、輸入税減免の法的準拠性、関税分類・関税評価の正誤、原産地証明書と実際の貨物との整合性、EPEの在庫管理など幅広い。調査対象期間は、税関申告書類の登録後5年間となっている。

 

 事後調査は、税関内での登録済み書類の再検査と、企業への現地調査がある。現地調査が行われる場合の調査フローは、(1)調査の5日前までに税関が対象企業に調査実施を書面で通知、(2)企業での現地立ち入り調査(調査期間は10営業日内。さらに10営業日を超えない範囲で延長される可能性がある)、(3)税関による事後調査報告書の作成、企業への送付(調査後5営業日内)、(4)税関による事後調査決定書の作成、企業への送付(調査後15日以内)となっている。

 

 違反が認められた場合の罰則として、本来払うべき関税、付加価値税(VAT)の納付(追徴課税)、罰金、本来申告すべき時点からの遅延利息(延滞税)などが科される。指摘事項は過去に遡及(そきゅう)適用されるため、追徴額は多額となる。さらに、多額な脱税や申告もれ、あるいは過去に行政処罰を受けたにもかかわらず繰り返した場合は、刑事罰の対象になり得る。

 

 事後調査決定書の内容に異議がある場合、企業は税関当局に異議申し立てが可能だ。申し立てには3段階あり、(1)税関調査決定書の受領後、90日以内に管轄税関に申し立て、(2)1回目の申し立てに対する管轄税関からの決定書を受領してから30日以内に上級税関当局に申し立て、(3)上級税関当局の決定書を受領してから1年以内に裁判所に申し立て(訴訟)となっている。

 

 上記の内容は、2015年1月1日に施行された改正税関法(54/2014/QH13)第77条から82条、および同年3月15日に施行された税関法の詳細通関手続き、税関審査手続きに関する政令(08/2015/ND-CP)第97~100条により、詳細が規定されている。なお、税関事後調査の事前通知があった場合、これを拒むことはできない。

 

<実在庫と登録在庫の不一致などが主な指摘事例>

 税関事後調査で問題となる主な事例の1つは、EPEの輸入原材料の実在庫と税関で登録されている在庫との整合性だ。対策としては、実在庫と税関在庫との差異がないか日々点検するとともに、差異が生じている場合は原因を突き止め、いち早く修正することが重要だ(2016年2月24日記事参照)。

 

 関税評価については、輸入事業者が当該商品の輸入申告価格を、正規価格よりも低い価格で申告している(低価インボイス)との指摘が入るケースが多い。特別消費税の課税対象となる酒類や自動車、比較的高価な牛肉などが調査の重点対象だ。税関は当該輸入商品と同種または類似の商品の市場価格をデータベース化しており、企業側は申告価格の妥当性を論理的に説明できるよう準備しておくことが求められる。事前教示制度による税関への確認も有効だ。ただし、同制度については「税関からの回答が遅い」との声も企業から聞かれる点には注意が必要だ。

 

 ロイヤルティーまたはライセンス料にも注意が必要だ。輸入商品に関する特許権、意匠権、商標権、著作権などは輸入関税の課税価格における加算要素だが、申告漏れが起きやすい。なお、仲介手数料も加算要素となる。

 

 そのほか、輸入申告されたHSコードが、税関の事後調査で異なるコードとして判定されることや、原産地証明書の記載内容と実際の商品との不一致を指摘されるなどの問題もある。前者については、同一商品が税関支所によって異なる見解が出ることもあり、事前教示制度の活用が有効となろう。

 

(栗原善孝)

(ベトナム)

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