適切な在庫管理や定期的な見直しが重要-「輸出加工企業を取り巻く投資環境と課題」セミナー-

(ベトナム)

ハノイ発

2016年02月24日

 ジェトロ・ハノイ事務所は、ベトナム日本商工会(JBAV)ビジネス情報サービス委員会と共催し、1月22日にハノイ市内で輸出加工企業(Export Processing Enterprise:EPE)を取り巻く投資環境と課題をテーマとしたセミナーを開催した。セミナーには約150人が参加し、EPEの義務と注意点について講師が事例を交えて解説した。

EPE要件維持や通関などで義務が発生>

 セミナーでは、日系企業相手のコンサルティング会社AICベトナムのゼネラルディレクター今村茂氏が講師となり、輸出加工企業の基礎から、昨今問題となっている在庫管理、販社ライセンスなどについて解説した。

 

 EPEとは、輸出加工形態のビジネスを実施することを前提に設立され、その事業許可(ライセンス)を受け、税務優遇を享受することのできる企業だ。輸出加工形態のビジネスとは、材料を国外から輸入し、ベトナム国内で生産活動を行い、輸出するものを指す。

 

 政令292008ND-CP26項、政令1142015NDCP1条によると、EPEの要件は以下のとおり。

 

1)輸出加工区(Export Processing Zone)において設立され操業している企業、または工業団地、経済特区において操業しており、製品の全てを輸出する企業。

2)ベトナム政府からEPEとして承認され、投資登録証明書(旧法では投資証明書)にEPEである旨が記載されている企業。

3)ゲートや出入り口を持つフェンスや壁などにより他の地域との境界線を有し、税関やその他の機関による監査、監督の条件を確保し、管理がされる企業。

 

 EPEへの優遇措置は、後述する義務の履行を条件として、付加価値税(VAT)と関税が免除される。EPEでない企業(NonEPE)もVATの還付を受けることが可能だが、全額が還付される保証はなく、還付までのキャッシュ負担が生じる点が大きな違いとなる。

 

 ただし、通常5年以内に行われる税務調査で、後述するEPEの義務を果たしていないと判断されると、免税を否認されてしまう点に留意する必要がある。

 

 EPEの義務として、EPE要件の維持義務、通関義務、標準消費量(Production Norm、以下、NORM)などを作成し、報告する義務がある。

 

 NORMについては、以前は当局へ事前登録を行っていたが、2015年の財政省通達38号(382015TTBTC)施行により、年度末から90日以内の報告義務に変更された。

 

 NORM作成に当たっては、製造加工に使われる材料の使用量、自然消耗、端材、不具合などを含む材料のロス率から算出した消費量が、会計科目上の金額(もしくは数量)を記したFORM15FORM16と整合しているか確認しておくことが重要になる。

 

 また余剰となった材料、補材、機械・設備、端材・不良材については、加工契約の完了後、もしくは終了後15日以内にFORM17で処理方法を通知する必要がある。

 

<在庫記録に基づく論理的な説明がカギに>

 EPEにおいては、企業の把握している材料の残数と、税関の把握している材料の残数が一致しないという問題が発生することが多い。実際の企業活動の中で差異が発生することはあり得るが、税関当局から指摘された際に、記録に基づいて論理的な説明ができなければならない。また経常的に差異が発生している場合や、差異が大きい場合は、税制優遇の適用が否認され、追徴課税される可能性があるので注意が必要になる。

 

 差異が発生する主な要因として、材料ロス率の変動が反映されていないことや、後継機種などの製造の際に誤った材料で登録されていたりすることがある。一度登録したものも、現状に即しているか定期的に見直しをするなどの対応が必要だ。

 

 また在庫の移動記録をつけ、検証できるようにすることで、異常なロスが発生した場合などに原因を特定し、税務調査の際にも説明責任を果たしやすくなる。実際の在庫について会計部門と製造部門間で整合性を取っておくことが重要となる。

 

 材料や不具合品を廃棄する場合は、廃棄理由、目的、材料名称、数量などを記載した廃棄通知を税関局および天然資源環境局(DONRE)に提出する必要がある。また廃材をベトナム国内に販売した場合は、廃材にした旨の決定書を作成しておくなど、記録を残しておくことが望ましい。

 

<販社ライセンス取引には不明確な点も>

 販社ライセンスとは一般的に、輸入権、輸出権、卸売権、(販売拠点を設けない)小売権を合わせたものを呼ぶ。このライセンスで行う活動は、生産活動を目的とするものでなく、商品を購入し、生産工程を経ることなく、販売することだ。販売拠点を設けない小売りとは、在庫を持たず、受注ありきのものを指すとされている。

 

 通達382015TTBTCの施行により、支店を設けないでEPEが販社ライセンスを行使することができるようになったが、条件として生産ライセンスの活動と、販社ライセンスでの活動の在庫を明確に分けることが規定されている。また、公文書18195BTCTCHQにより販社ライセンスを取得した企業は、EPE活動と販社活動の会計を分離しなければならないとしている。このように支店を設けず販売ライセンスを行使できるようになった一方、活動規模についての法的ガイダンスはないため、売り上げのどの程度まで許容されるか、といった課題は残されている。

 

<日頃からの書類整備と在庫管理が重要>

 ベトナムに進出している日系企業で、輸出加工を行なっている企業は多い。2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査によると、ベトナムの回答企業557社のうち、製造業は364社で、そのうち輸出加工企業は189社と半数に上る。そのため本セミナーへの関心も高かった。参加者からは「在庫管理の考え方、重要性がよく理解できた」「今後の対策のヒントになった」などの声が多く聞かれた。

 

 実際に、税関調査がきてから数年分の書類を準備するなどの対策を講じるのは難しい。専門家と相談して最新の法令について把握するとともに、調査されることを前提に日々、社内において書類を整備し、在庫を適切に管理していくことが重要だ。

 

(荒井拓也)

(ベトナム)

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