新為替管理制度に日系企業の不満高まる-リンギ安の抑制効果は表れず-

(マレーシア)

クアラルンプール発

2017年01月19日

 マレーシア中央銀行が導入した輸出代金の通貨リンギへの両替義務などから成る新為替管理制度は、その後、中銀が幾つかの緩和条件を出したものの、企業の反発は依然強い。日系企業には、煩雑な手続きや為替リスクの発生などから、新規投資へのマイナスの影響を懸念する声もある。本来、新制度の導入はリンギ買いによる通貨安への歯止めになると期待されていたが、通貨の下支え効果はみられない。

<両替業務が煩雑、為替リスクも発生>

 マレーシア中央銀行が2016年12月2日に導入した新たな外貨管理制度(2016年12月12日記事参照)は、輸出企業に輸出代金の75%をリンギに両替することを義務付け、日系企業をはじめ多方面に大きな影響を与えており、中銀はQ&Aをウェブサイトに掲載するなど、不安払拭(ふっしょく)に努めている。制度発表後、中銀の承認を得れば25%を超えた外貨が保持できるとの例外措置が実施されたが、新制度が日系企業に与える影響は依然として大きい。

 

 マレーシアで事業を行う日系製造業は、半製品を輸入して組み立てた上で、日本や第三国に輸出する企業が多い。こうした企業は今回の制度導入で、外貨による輸出代金の入金ごとに75%をリンギに両替する煩雑な業務に直面している。同時に、外貨をリンギに両替する際の為替リスクも発生する。企業の中には、新たに貿易用外貨口座の開設が必要となる場合もある。

 

 新制度では両替義務に加えて、国内取引におけるリンギ使用も義務化された。中銀は制度導入時点の既存契約に基づく国内取引は、2017年3月末まで外貨決済も可能としているが、新規契約や既存契約の更新の場合の国内決済はリンギ建てとしなければならない。これまで国内で外貨建て決済を行ってきた企業は新たにインボイスをリンギ建てに変更しなければならない。また、今後の外貨建て国内取引での決済のための為替予約をキャンセルする必要が生じる。

 

<新規投資の見直しを懸念する声も>

 長期的にみると、新為替管理制度の導入によって、マレーシアを輸出拠点とする企業を中心に日系企業の進出メリットは薄れるとの声も聞かれる。マレーシアで事業展開を行うよりも他国で売り上げを計上するほうが、両替の強制によるコスト増や為替リスクを回避できるからだ。加えて、新制度導入は公式発表前に周知されなかったため、中銀の信頼性が揺らぎ、進出企業の資金引き揚げにとどまらず、新規投資の見直しにもつながりかねないとの懸念もある。

 

 新為替管理制度の目的は、急速に進んだリンギ安の抑制だ。2016年4月には1ドル=3.9リンギの水準にあった為替は、新制度導入前の12月1日には政治的混乱の嫌気や景気の不透明感などを背景に4.5リンギまで下落した。新制度導入後のリンギは、ASEAN主要国の通貨と比較すると、導入直後の12月初旬にはリンギ買いの動きがみられたものの、2017年1月5日時点では、他国通貨が堅調に推移する中、リンギは新制度導入前を下回る水準で推移している(図参照)。

図 ASEAN主要国の為替相場の推移(2016年12月1日~2017年1月5日)

 中銀は2016年12月23日にインドネシア中央銀行と貿易・直接投資の決済を現地通貨で行う旨の覚書を取り交わし、間接的に通貨を下支えできる素地を整えた。同様の仕組みは2016年3月にタイ中央銀行との間でも構築されている。一方、中銀の外貨準備高は2016年12月30日時点で946億ドルと2015年末比で0.7%減少した。外貨準備額は輸入額の8.8ヵ月分、対外短期債務の1.3倍に相当し、中銀は「国際取引を行う上では十分な水準」とするが、リンギ安を抑える効果的な方策が見当たらないのが現状だ。

 

(新田浩之)

(マレーシア)

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