英最高裁、EU離脱通知には議会承認が必要と判決

(英国、EU)

ロンドン発

2017年01月25日

 英最高裁判所は1月24日、EU離脱通知は政府の判断のみで行うことはできず、議会の承認が必要との判決を下した。一方で、離脱通知にスコットランドなど各地方議会の承認は不要とした。判決が離脱通知までのスケジュールに与える影響が懸念されるが、政府は3月末までに通知を行うとあらためて強調、離脱通知法案を近く議会に提出する。

<スコットランドなど地方議会の承認は不要>

 今回の判決は、英国がEUに対して離脱通知を発するのに必要なプロセスについて、英国人投資家、実業家らが政府を相手取って起こしたもので、2016年11月に高裁で下された議会承認が必要との判決を不服とし、政府が上訴、最高裁で審理が行われてきた。

 

 EU離脱プロセスについては英国法にもEU基本条約(リスボン条約)にも明確な規定がなく(2016年8月2日記事参照)、テレーザ・メイ首相はじめ閣僚も「政府の判断のみで行える」と主張してきたのに対し、原告らは「議会承認が必要」と主張、これにスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各議会における承認の必要性も加わり議論となっていた。

 

 議会承認の必要性については、11人の判事のうち8人が原告の主張を支持した。判決はEU離脱について、EU加盟以来英国法の体系に組み込まれてきたEU法が取り除かれることで英国法の体系に大きな変化をもたらし、EU法に立脚した権利などにも影響を与えるとして、離脱通知に当たっては議会承認が必要とした。

 

 一方、各地方議会での承認については、11人の判事の総意として、EUとの関係性は政府や議会(中央議会)が取り扱う問題であり、各地方議会の承認は不要とされた。

 

<政府は3月末までの離脱通知に自信>

 政府は3月末までにEUに対して離脱通知を発する意向を示しており、今回の判決がこのスケジュールに与える影響が懸念されている。首相官邸は判決を受けてコメントを公表し、最高裁の判決を尊重するとしながらも、「判決は3月末までにEU離脱を通知するという計画に何ら影響するものでない」とし、「国民投票実施自体を議会の多数が支持していたことは、EU離脱をスケジュールどおりに進めることに議会の支援を得られることを意味している」と、今後の見通しに自信を示した。

 

 また、デービッド・デービスEU離脱相は議会に対し、数日中に政府がEU離脱通知法案を提出すると表明した。法案は議会両院での審議を経ることになるが、BBCなどは、議論の余地をできるだけなくした内容の法案が提案される、と報じている。

 

 議会審議に当たっては野党の対応が注目されるが、労働党のジェレミー・コービン党首は「EU離脱通知法案の修正を求める」と述べた。また、スコットランド国民党(SNP)のニコラ・スタージョン党首は、スコットランド議会の承認を不要とした判決に遺憾の意を示しながらも、「政治的にスコットランド側の意をくむ必要性があるのは明らか」と、中央政府に対しスコットランドや各地方政府と緊密な連携を取ることを求めた。

 

 産業界では英国商工会議所(BCC)がコメントを公表し、今回の判決が政府のアプローチや交渉スケジュールに与える影響のほか、為替市場への影響を懸念しているとしている。

 

(佐藤央樹)

(英国、EU)

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