現地に精通する人材獲得に向けて講演やディスカッション-「アフリカ出身ビジネスパーソン活用セミナー」を東京で開催-

(アフリカ、日本)

中東アフリカ課

2016年12月26日

 ジェトロは12月2日、東京で「アフリカ出身ビジネスパーソン活用セミナー」を開催した。本セミナーは8月27~28日にケニアで開かれた第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)のフォローアップ事業の一環として、国際協力機構(JICA)と共催した。アフリカ出身者らを雇用する日本企業による講演を通じて、「共に働く」ことの意義などを考える機会となった。会場には政府や企業関係者のほか、「ABEイニシアティブ」による留学生など約120人が集まり、講演者の話に熱心に耳を傾けた。

<日本的な基準にとらわれず、現場への理解が重要>

 新規市場を開拓する際に、現地事情に精通した企業や個人と協業することが有利に働くことが多いが、優秀な人材を獲得するのは容易ではない。2015年度に実施したジェトロの調査によると、在アフリカ進出日系企業の約4割は現地人材(特に中間管理職)の採用に難しさを感じているという。一方で、現地に精通した優秀な人材を獲得することで自社の対アフリカビジネスを優位に進められるメリットから、企業側は求人サイトや人材あっせん業者の活用のほか、口コミでの紹介などを通じて、優秀な人材確保に努めている(通商弘報特集「中東アフリ地域での現地人材確保策」参照)。

 

 セミナーの冒頭で山田尚徳ジェトロ・アビジャン事務所長(コートジボワール)は、政府による支援などを受けて、アフリカから日本への留学生が957人(2005年)から1,530人(2015年)に増加していることに触れ、アフリカ出身人材を見つけて採用するチャンスは増えている、と述べた。さらに、自身の管轄地域であるフランス語圏西・中部アフリカでのビジネスでは、対象国のみならず「フランス語圏」という広域の視点で人材を確保することの利点や事例を紹介した。一方で、採用した企業側の声として、「マネジメントでは日本的な協業が通用しにくいので、具体的に指示するスタイルの方が進めやすい」「高い英語力のほか、日本への強い関心を条件として求める」などがあった。逆にアフリカ出身者の声として、「日本の基準で考え過ぎて、現場への理解が乏しい」「目的意識をもって指示を受けるために、会社としての方針を明確に示してほしい」などを紹介した。

 

<文化的多様性への配慮と平等な評価が必須>

 続くセミナーの第1部では、アフリカ人材を活用する日系企業として、eコマースを利用した中古車輸出を手掛けるビィ・フォアードの関戸洋平マーケティング部マネジャーが講演した。年間15万台の中古車を世界に輸出し、世界124ヵ国(うちアフリカは42ヵ国)との取引実績がある同社は、グローバル採用にも積極的で、社員の3割が日本以外の国籍だ。アフリカ出身者はマラウイ、ウガンダ、カメルーン、コンゴ民主共和国、モロッコ、ソマリア、ケニア、タンザニアにまたがる。国籍に関係なく、同基準で比較して優秀な人材を採用してきたという。アフリカでは、東南部諸国に7拠点あり、現地人材には日本人スタッフが直接指導し、日本企業としての理念・仕組みを浸透させることで、高品質のサービスを追求していることを紹介した。また、同社のアフリカ出身人材は日本人以上に営業成績の数字を意識していると感じるため、平等で公平な評価が必須、と述べた。

 

 通信販売や動画配信、オンラインゲームなどのサービスを提供するDMM.comの海外事業部であるDMM.Africa(アフリカ新規事業立ち上げユニット)の吉岡伸太氏は、DMM.comグループ全体でアフリカ出身者は約0.3%(9割以上は日本国籍)と多くはないものの、その国籍はエジプト、カメルーン、ケニア、コートジボワール、コンゴ民主共和国、タンザニア、ブルキナファソと多様だ、と紹介した。同社では、アフリカ5ヵ国(ケニア、ルワンダ、ザンビア、ジンバブエ、タンザニア)で計350人の現地起業家が参加するビジネスコンテストを実施したり、東京でワークショップを開催したりするなど、アフリカでの新規プロジェクト立ち上げに力を入れている。アフリカ出身人材の強みは、多言語能力と出身国に対する深い文化的理解だとし、社内の雰囲気が明るく前向きになった、との声や、従業員間で文化・価値観の多様性に対する意識が変わったことを紹介した。また同氏は、文化的多様性の広がりを受けて、より周囲に配慮した言動が必要であることを強調した。

 

<人材活用・育成支援策の利用を促す>

 第2部では、日本企業で働くアフリカ出身者5人によるパネルディスカッションが日本語で行われた。パネリストは、日本の学術・研究機関に所属した経験を生かして日本企業に就職、あるいは自身の出身を強みに日本企業でアフリカ地域を担当するなど、それぞれに活躍中だ。タキ・コフィ・アルフォンソ氏(コスモステクニカルセンター、コートジボワール出身)は、自身の周りで日本企業に勤めるアフリカ出身者が増えている印象だとし、「ABEイニシアティブ」(注)を活用したコートジボワール留学生の9割は、自国への帰国前に日本企業で働きたい意欲がある、と述べた。ビソンボロ・アベル氏(中山鉄工所、コンゴ共和国出身)は、そうしたABEイニシアティブ留学生を日本企業側で積極的に活用・育成するとともに、事前に啓発活動を実施することを提案した。

 

 エドワード・タウェ・チオファック氏(ビィ・フォアード、カメルーン出身)は、ビジネスで重要なのは文化的理解だとし、例えばカメルーンのようなアフリカの国では製品の割引ではなく、おまけとしてモノをもらうことの方が顧客に喜ばれることを紹介した。ンジャイ・ポール・ブノ氏(筑水キャニコム、セネガル出身)は、日本とアフリカ諸国それぞれの文化を理解していることが、現地の顧客と向き合う際に信頼を得やすいように感じると、アフリカ出身人材の強みを語った。カプング・アレックス氏(DMM.Africa、タンザニア出身)は、日本企業と現地企業の協議によって理解の違いを埋める役割が果たせること、現地ならではの文化やニーズを肌感覚として知っていることで、日本企業のビジネス戦略に反映できることが強みだ、と述べた。

 

 質疑応答では、「ABEイニシアティブの留学生が自国に帰国した後、いかに日本企業はつながりを維持するか」「日本企業に勤めるアフリカ出身者は、いかに日本企業をアフリカ諸国に誘致できるか」といった質問に対し、講師の日本政府関係者やパネリストは「留学生を集めたポータルサイトや同窓会といった仕組みを活用できる」「有力なアフリカ企業の存在を日本企業側に示すなど、日本企業に新たな気付きを提供できる」と答えた。また、パネリストからは「アフリカ企業側も待っているだけではなく、例えば自社製品を改良するために必要な技術が日本にあれば、積極的に日本企業にアプローチをすべきだ」との提言があった。アフリカ地域はカントリーリスクが大きく、日本企業が二の足を踏む、という点に関しては、「現地に精通した人物との接触や情報交換の機会を増やし、他国の投資手法を研究することがリスク低減につながる」との声も出た。

 

 最後に、日本企業向けのグローバル人材活用・育成支援策として、ジェトロから、日本の若手人材をインターンとして開発途上国の政府系機関などに派遣する「国際化促進インターンシップ事業」や「高度外国人材の採用・定着エキスパート」による個別支援サービスなどを紹介した。JICAからは、ABEイニシアティブの「修士課程およびインターンシッププログラム」の概要に関する説明や、企業との具体的な連携事例などについての紹介があった。

写真 セミナー会場の様子(ジェトロ撮影)
パネルディスカッションの様子。左から、エドワード・タウェ・チオファック氏(ビィ・フォアード)、カプング・アレックス氏(DMM.Africa)、ンジャイ・ポール・ブノ氏(筑水キャニコム)、ビソンボロ・アベル氏(中山鉄工所)、タキ・コフィ・アルフォンソ氏(コスモステクニカルセンター)(ジェトロ撮影)

(注)アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ。

 

(堀田萌乃)

(アフリカ、日本)

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