最低賃金を2017年1月に引き上げ、上昇率は平均7.3%

(ベトナム)

ハノイ発

2016年11月25日

 ベトナム政府は11月14日、2017年の最低賃金に関する政令153号(153/2016/ND-CP)を公布した。改定後の月額最低賃金は、ハノイ市、ハイフォン市、ホーチミン市などの地域1で375万ドン(約1万8,750円、1ドン=約0.0049円)に引き上げられる(ドル換算では約167ドル)。上昇率の全地域平均は7.3%となる。

<上昇率は過去10年間で最小、伸びは一服か>

 政令153号は201711日から施行される。前回の最低賃金引き上げは201611日に行われた。ベトナムの最低賃金は14の地域別に設定されている。今回の改定により、ハノイ市、ハイフォン市、ホーチミン市を含む地域1の最低賃金は375万ドン(7.1%増)、地域2(ダナン市、バクニン省など)が332万ドン(7.1%増)、地域3(ハナム省など)が290万ドン(7.4%増)、地域4258万ドン(7.5%増)となる(表1参照)。

表1 月額最低賃金の比較

 2017年の最低賃金改定に当たっては、賃金評議会が8月に諮問案を国会に提出しており、今回の政令153号の月額最低賃金は同諮問案に沿ったかたちとなった(2016年8月17日記事参照)。2017年の月額最低賃金の平均上昇率は7.3%と過去10年間で最小となり、ここ数年続いてきた2桁以上の伸びからは一服した感がある。他方、2016110月のインフレ率は前年同期比2.3%で、2015年における0.7%と比べ上昇傾向にあるものの、2017年の最低賃金の平均上昇率もインフレ率を大きく上回る状況にあることに変わりはない。

 

<将来の競争力を疑問視する意見も>

 ベトナムに進出する日系企業間でも、輸出加工型製造業が多い北部と、内需向け製造業の比率が一定程度を占める南部とでは、上昇率に対する捉え方は異なる。

 

 北部にある輸出加工型の進出日系企業関係者からは2017年の最低賃金に関して、「感覚的にはまだ高過ぎる」「タイなど他国と比べて競争力が低下しており先行きが心配」といった声が上がっている一方、南部の進出日系企業の間では、給与水準の上昇に伴う購買力向上を期待する声もある。実際、ジェトロの調査に基づいて比較すると、法定最低賃金はバンコクの方がハノイより25%高いが、事業主の社会保険負担率を勘案するとその差は7%にまで縮小する(表2参照)。今後の賃金上昇幅や、タイとベトナム両国間の生産性、現地調達状況などを比較すると、特に両国に拠点を持つ企業からは、将来的なベトナム拠点の競争力を疑問視する意見も聞かれる。

表2 タイとの賃金水準比較

 また、縫製業など他国との厳しい輸出競争にさらされている地場の業界団体からも、急速な賃金上昇を懸念するコメントが出されている。例えば、ベトナム繊維協会(VITAS)は20167月に、2017年の最低賃金上昇を見送り23年ごとの引き上げとするよう、政府に対し提言していた。豊富な労働力を生かした輸出産業の競争力維持と、国内労働者の生活水準向上という2つの課題に対処するため、最低賃金の改定に当たって政府は今後、ますます難しい判断を迫られることが予想される。

 

(竹内直生)

(ベトナム)

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