賃金評議会が2017年の最低賃金引き上げ案-日系企業の多い第1地域は7.1%-

(ベトナム)

ホーチミン発

2016年08月17日

 賃金評議会は8月2日、2017年の最低賃金(月額)を7.1%(第1地域)引き上げる内容の政府へ提出する案を決定した。11.1%の引き上げを要求する労働総連と、4.5~5%の引き上げ幅しか受け入れられないとする雇用者側とのほぼ中間となった。

<労使それぞれの要求のほぼ中間値>

 賃金評議会は、政府代表の労働・傷病兵・社会省、雇用者側代表のベトナム商工会議所、労働者側代表の労働総連の3者で構成される。政府へ提出する最低賃金案の決定は、2015年は93日だったが、2016年は1ヵ月早まり、労使間の関心の高さがうかがえる。当地報道によると、賃金評議会は「現行の2016年の最低賃金は、労働者の最低生活水準の85%程度にすぎず、残業や生活費の節約で実質生活を補っている」と労働総連側に一定の理解を示す一方、「ここ数年の最低賃金上昇率は、GDP成長率やインフレ率を大きく上回っており、企業の競争力を脅かすものだ」とするベトナム商工会議所側にも配慮し、労使それぞれの要求値のほぼ中間値で妥協させたかたちだ。

 

 これまでの賃金改定の推移を、日系企業の多い第1地域(ハノイ、ホーチミン近郊)でみると表1のとおり。また2017年度の最低賃金案の地域別詳細は表2のとおり。

表1 第1地域の月額最低賃金の改定の推移
表2 現行の月額最低賃金と2017年最低賃金案の地域別詳細

 近年は賃金評議会の最低賃金案が大幅に修正されることはなく、2017年改定もこのまま認められる見通しだ。ベトナム政府の基本的なスタンスは、最低賃金を労働者の最低生活水準まで引き上げることにあり、物価上昇率を大きく上回る最低賃金上昇は当面続くとみられる。

 

<日系企業にもコストアップ要因>

 多くの日系企業はこれまで最低賃金以上の給与を支払っており、必ずしも最低賃金の引き上げ率と同率の昇給を実施する必要はない。ただ、労使交渉における実質的な尺度として、最低賃金引き上げ率と同等あるいはそれ以上の昇給率をワーカーから要求されるケースは珍しいことではなく、労働争議の火種となりかねないことから、例年、慎重な対応が求められてきている。賃金が米ドル換算ベースでもここ数年、上昇を続けており、輸出主体の日系企業にとっては、損益悪化を避けるため、さらなるコストダウンを迫られそうだ。

 

 こうした一方、商業都市のホーチミンでは、2015年の1人当たりGDP5,000ドルを超え、ベトナム全国平均の2,088ドルの約2.5倍となっている。ホワイトカラー層を中心に、最低賃金を大幅に上回る所得層が存在しているが、日系企業の中でもサービス産業分野で進出している企業は、最低賃金の引き上げにより所得の向上や消費市場の底上げ・拡大が期待できるとして、引き上げに一定の理解を示している。

 

(栗原善孝)

(ベトナム)

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