南部アフリカ開発共同体とEUのEPAが発効-産業振興に主眼-
(アフリカ、EU)
中東アフリカ課
2016年10月13日
南部アフリカ開発共同体(SADC)とEUとの経済連携協定(EPA)の暫定適用が、10月10日に開始された。同協定は10年間の交渉期間を経て6月に合意に達していた。南アフリカ共和国は別途、EUと通商・開発・協力協定(TDCA)を締結していたが、EPA発効を機に解消する。南ア政府は、このEPAがアフリカ側の産業振興に主眼を置いており、地域統合を深化させるものだと歓迎している。
<関税撤廃・削減や相互の市場開放目指す>
SADC(注)のEPA交渉グループとEUは2016年6月にEPAに署名した。同協定ではボツワナ、レソト、モザンビーク、ナミビア、スワジランドの5ヵ国がEUに輸出する際の関税をEUが撤廃するほか、南アからEUへの輸出品目の98.7%についても完全あるいは部分的に関税を撤廃・削減することが定められている(表1参照)。
一方で、SADC側加盟国は、十分な国際競争力を持たない品目については独自の関税を課してもよいとされている。EUから南部アフリカ関税同盟(SACU)の加盟国である南ア、ボツワナ、レソト、ナミビア、スワジランドに輸出する場合には86.2%の品目が無税(うち部分的な免税適用品目は12.1%)、モザンビークへの輸出に関しては74%の品目が無税となる。
原産地規則については、本協定の当事国のほか、一部のEUとのEPA締結国またはEUが特恵措置を付与している国から調達した原材料であれば自国の原産品として累積できる原産地累積制度が取られ、域内で新たなバリューチェーンの形成を促すものとなっている。
南アを除くSADC加盟国とEUは、他のアフリカ・カリブ海・太平洋(ACP)諸国とともに特恵貿易と開発援助に関するコトヌ協定を2000年に締結している。しかし、EU側の一方的な市場開放になっていたため、EUは相互の市場開放を目指し、ACP地域の地域共同体ごとにEPAを締結する意向で、各地域と交渉を進めていた。
<南アはEUとの2者協定からEPAに移行>
南アとEUは1999年に自由貿易協定(FTA)を含む通商・開発・協力協定(TDCA)を調印し、2004年5月に発効している。今回、南ア政府はTDCAとEPAの2つの協定を維持することはせず、SACUの域内統合を優先させるためEPAに移行すると発表した。
TDCAからEPAへの移行に伴う利点として南ア政府は、(1)EPAではSACUの対外共通関税が維持されること、(2)農産分野におけるルールの不均衡が是正されること、(3)TDCAで制限されていた国内産業保護のための関税政策実施の余地が確保されること、(4)EU市場へのアクセスが改善されること、を挙げている。
具体的には、南ア産品の98.7%に対してEU市場への特恵的なアクセスが認められ、TDCA下での約95%を上回った上、産品の約96%は無税または数量制限なしでEU市場へ輸出できるとした。一方で、EU産品のSACU市場へのアクセスについては、TDCAより少ない86%に抑えたとした。
地理的表示では、南ア原産のハーブティーであるルイボスやハニーブッシュのほか、カルーラム(子羊肉)やワイン産地であるパール、ステレンボッシュといった102の名称が保護される。また、TDCAで対象分野から外れていた水産業がEPAには含まれており、魚介類・同加工品の94%がEU市場へ無税または数量制限なしでアクセス可能となる。そのほか、無税枠の拡大として砂糖が15万トン、エタノールが8万トン、ワインがこれまでの5,000万リットルから1億1,000万リットルまで拡大するなど、農産品30品目についてもEU市場へのアクセスが改善された。他方、EU側は地理的表示で251の名称が認定されたほか、小麦、砂糖、菓子類、大麦、チーズ、豚肉、シリアル(穀物類)、バター、アイスクリームなどのSACU市場へのアクセスが改善された。
南ア政府がEUと発表した共同声明では、「EUとSADCのEPAは開発志向の協定であり、地域統合を深化させるもの」だと強調している。また、南アの輸出入業者に多岐にわたる分野で新たな機会をもたらし、貿易拡大、貧困削減、雇用創出につながることが期待されると締めくくっている。
<SADCとEUの貿易の7割占める南ア>
なお、英国のEU離脱の影響について南ア貿易産業省は6月24日、英国がEUを離脱するまでの2年間の猶予期間に、2国間の今後の枠組みについて検討すると発表した。選択肢として、南アを含むSACUとFTA締結済みの欧州自由貿易連合(EFTA)に英国が復帰すること、もしくはSACUと英国とのFTAを締結することを掲げている(2016年7月6日記事参照)。
2015年のSADC(EPA交渉グループ)とEUとの貿易額は687億4,600万ドルで、そのうち南アが約7割を占める(表2参照)。南アの輸出全体に占めるEU向けの割合は約3割、輸入では約2割となっている。南アのEU向け輸出品目では、プラチナなどの貴石・貴金属(構成比30.8%)、自動車(15.7%)、果物・ナッツ(8.6%)が、南アの輸入品目では一般機械(21.2%)、自動車(19.1%)、電気機械(10.9%)が上位を占める。
(注)SADC加盟15ヵ国のうち、ボツワナ、レソト、ナミビア、モザンビーク、南ア、スワジランド、アンゴラの7ヵ国がEPA交渉グループ。モザンビークは発効に向けた国内手続きを進めており、アンゴラは協定に署名していないが、将来参加する可能性がある。それ以外のSADC加盟国であるコンゴ民主共和国、マダガスカル、マラウイ、モーリシャス、セーシェル、タンザニア、ザンビア、ジンバブエは、他の地域共同体の中でEUとのEPA交渉を行っている。
(高崎早和香、堀田萌乃)
(アフリカ、EU)
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