南ア経済への影響は中長期の見極めが必要に-英国のEU離脱問題-

(南アフリカ共和国、英国)

ヨハネスブルク発

2016年07月06日

 英国国民投票の結果(EU離脱選択)に対する一時的な反応は、南アフリカ共和国では通貨安・株安・債券安というかたちで表れた。金融市場の動揺はいったん収まったが、投資家のリスク回避傾向が長引けば、南アに流入する資金の減少が懸念される。一方で、英国の景気減速に伴う貿易量減少の影響は相対的には小さいと見込まれ、離脱による市場アクセス低下の影響も少なくとも2年間のEUとの交渉期間中は顕在化しないとみられている。ただし、今後の影響を見極めるにはしばらくの間、市場の動き、英国やEUの景気動向、離脱プロセスの進捗を注視していく必要がある。

<予想外の結果を受けた南ア金融市場の動揺>

 英国国民投票の結果が発表された624日、予想外の事態に南ア金融市場でも動揺が広がった。取引開始直後から、為替、株式、債券とも売りが先行し、現地通貨ランドは一時8%安(前日比)まで売り込まれるに至った。動揺の広がりを抑え込むため、ズマ大統領からは「南アの金融セクターは、2008年から2009年にかけて世界金融危機時に実証されたとおり、危機への耐性が高く、金融システムおよび規制体系は頑健かつ信頼に足る」との声明が、ゴーダン財務相からは「財務省および中央銀行は、英国のEU離脱からもたらされる影響に対処するため、あらゆる手段を講じる用意がある」との発言が、矢継ぎ早に発表された。24日は引けにかけて、当初の売りが過剰反応との認識も広がり、為替、株式、債券とも朝方よりは値を戻したが、翌営業日の27日も引き続き、為替、株式、債券とも売りが先行した。この2営業日でランドは、英国のポンドに次ぎ、対ドルで最も下落した通貨となった。折から国内の経済状況が芳しくないことに加え、英連邦加盟国である南アの英国との連動性や市場での流動性の高さから、他通貨に比べてランドが売り込まれた、というのが現地金融機関の理解だ。ただ、翌28日には、南ア金融市場の動揺に沈静化の兆しが出始めた。

 

<英国と南ア間の貿易投資枠組みに与える影響>

 英国国民投票の結果が判明してからの数日間において影響が確認できるのは、上記のとおり金融市場の動向ということになる。今後、英国の景気が減速すれば、南ア経済も英国との経済関係の緊密度に応じた影響を受けることになるだろう。国連貿易統計によると、2015年の南ア・英国間の貿易取引総額(輸出額+輸入額)は55億ドル(南アの貿易取引総額の3.7%)だ。南ア・中国間の貿易取引総額が204億ドル(13.7%)であることを踏まえると、今後、英国経済が減速しても、中国経済減速が南ア経済に与えてきた影響に比べれば、相対的に小さいと見込まれる。

 

 また、EUと南アとの間で締結されている自由貿易協定(FTA)から英国が外れることにより、英国・南ア間の市場アクセスが低下するとの懸念があるが、この点に関しては624日の段階で、南ア貿易産業省が「英国が実際にEUを離脱するまでには2年間の猶予があり、その間に英国と南アの将来の枠組みについて検討できる」旨を発表している。貿易産業省は将来の選択肢として、南アを含む南部アフリカ関税同盟(SACU)とFTA締結済みの欧州自由貿易連合(EFTA)に英国が復帰すること、もしくはSACUと英国との2者間FTAを締結すること、を掲げている。

 

<影響見極めには時間を要する>

 短期的な金融市場の動揺は、ひとまず落ち着いたかにみえる。ただ、不確実性の高まりに伴う投資家のリスク回避志向が払拭(ふっしょく)されたとまではいえず、こうした状況が長引けば、通貨下落、資金調達コスト上昇、実体経済への波及という格好で南ア経済に影響が出てくる恐れがある。また、英国が南ア・EU間の貿易投資枠組みから外れることによる影響は、少なくとも2年間は顕在化しないとしても、英国が南アをはじめとした世界各国と枠組みを再構築する取り決めへの移行が円滑に行わるかどうか注視していくことが必要になる。英国のEU離脱がもたらす影響を見極めるためには当面の間、市場の動きに加えて、英国とEUの景気動向や英国のEU離脱プロセスの進捗度合いをモニターするのが肝要だ。

 

(石ケ休剛志)

(南アフリカ共和国、英国)

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