2017年1月から法定最低賃金を11.1%引き上げ

(チェコ)

プラハ発

2016年10月13日

 ソボトカ内閣は10月5日、法定最低賃金に関する政令を改正した。これにより2017年1月1日から最低賃金(月額)が現行の9,900コルナ(約4万1,580円、1コルナ=約4.2円)から1万1,000コルナに1,100コルナ(11.1%)引き上げられる。1時間当たりでは58.70コルナから66コルナになる。

<平均賃金の38.2%に上昇>

 ソボトカ内閣は20141月の発足以来、最低賃金を既に2度引き上げており、3度目の今回を合わせると2,500コルナの引き上げとなる。ソボトカ首相は「最低賃金の引き上げは、最低賃金を平均賃金の40%に近づけるという内閣の政策綱領に基づいたものだ(2015年9月29日記事参照)。今回の引き上げにより、2017年の最低賃金の平均賃金に対する割合は38.2%(2015年は34.6%)に達すると見積もられる」と説明している。同首相は同時に、40%を目指して2017年以降も段階的に引き上げを実施していきたいと述べた。

 

 さらに首相は、「欧州先進諸国の最低賃金は、チェコの数倍のレベルに保たれている」として、チェコの最低賃金をほかのEU諸国に近づける必要性も強調している。ミハエラ・マルクソバー労働・社会福祉相によると、EUで最低賃金がチェコを下回る国は、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどごく少数に限られている(表参照)。

EU各国の月額最低賃金と平均賃金に対する割合

<企業は経営への悪影響を危惧>

 労働組合の全国組織であるボヘミア・モラビア労働組合連合のヨゼフ・ストシェドゥラ議長は、内閣、雇用者代表、労組の3者会談で、当初11,500コルナへの引き上げを要求していたが、今回の内閣の決定に満足の意を表明している。

 

 一方、雇用者団体の産業連盟は、3者会談では最高700コルナの引き上げが妥当と提案していた。今回の内閣の決定に対してヤロスラフ・ハナーク総裁は「雇用者の合意なしに断行された、コンセプトを欠く措置」と批判している。

 

 雇用者側は、特に最低賃金労働者の割合が高い企業にとって、今回の大幅な引き上げは経営に大きな影響を与えることになる、と危惧を表明している。産業連盟は特に打撃を受ける産業部門として、繊維のほか、観光や外食、警備などのサービス部門を挙げた。またチェコ商工会議所のウラジミール・ドロウヒー会頭は「最低賃金水準の労働者を多く雇用する企業では、新規雇用が抑制され、場合によっては労働者の解雇、機械による代行、あるいは不法労働といった事態にもなりかねない」と警告している。

 

 チェコ商工会議所と産業連盟は長年、国内経済の実績を基に、客観的な基準にのっとって最低賃金を調整する制度の確立が必要と主張してきた。ドロウヒー会頭は「20162月には首相に対して、最低賃金の体系的な調整方法を審議する専門家のワーキンググループを組織するよう書面で要請したが、首相の理解は得られなかった」と遺憾の意を表明している。また産業連盟のハナーク総裁は「われわれは今回のような急激な引き上げではなく、漸進的で緩やかな上昇を望んでいる。また政治的な思惑が反映されるのを防ぐためにも、最低賃金を定める客観的制度が必要」と指摘し、1078日の上院改選第1回投票と地方選挙直前になされた内閣の決定はポピュリズムだと非難した。

 

(中川圭子)

(チェコ)

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