鉄鋼製品のビレットと棒線にセーフガード発動-2020年3月21日まで、関税率は1年ごとに引き下げ-

(ベトナム)

ハノイ発

2016年08月15日

 ベトナム商工省は7月18日付で決定2968/QD-BCT号を公布し、ビレットや棒線の輸入鉄鋼製品に対してセーフガード措置を発動した。これにより、8月2日から2020年3月21日まで、対象品目にセーフガード関税が課される。なお、これに先立ち、3月22日からは暫定セーフガード措置が発動されていた。

<地元鉄鋼4社が商工省に要請>

 セーフガード措置の対象品目は主に建設資材用の鉄鋼製品で、HSコード8桁では下記のとおり。

 

○ビレット

7207.11.007207.19.007207.20.297207.20.997224.90.00

○棒線

7213.10.007213.91.207214.20.317214.20.417227.90.007228.30.109811.00.00

 

 セーフガード措置発動の背景としては、2015年に中国の鉄鋼製品が在庫過剰に伴ってベトナムに大量流入したことや、人民元切り下げにより販売価格が国産品と比べて安くなったことが挙げられる。「ベトナムニュース」(電子版719日)によると、ビレット輸入量が2012年の466,000トンから2015年には150万トンに、棒線が2012年の387,000トンから2015年には120万トンに、いずれも急増していた。これを受け、ホアファット鉄鋼、サザンスチール、タイグエン鉄鋼、ベトイ鉄鋼の地場4社がセーフガード措置の発動を商工省に要請していた。

 

 商工省は、20151225日付でセーフガード措置発動に関して調査することを決定(商工省決定14296QDBCT号)し、201637日付で暫定セーフガード措置の発動を決定した(商工省決定862QDBCT号)(2016年4月12記事参照)。暫定セーフガードの関税は、ビレット23.3%、棒線14.2%だった。その後、55日に関係者に対する公聴会が開催され、624日に同省競争管理局が商工相に最終報告書を提出していた。

 

<当初の関税率はビレット23.3%、棒線15.4%>

 今回のセーフガード措置に伴う関税は、82日から2020321日まで課される。関税率は、82日~2017321日の期間がビレット23.3%、棒線15.4%で、その後は1年ごとに引き下げられ、2020322日以降は0%となる(表参照)。

表 セーフガード関税率

 当地日系企業によると、ベトナムには対象品目を輸入している企業が多いことから、今回のセーフガード措置発動の影響は大きいという。前述の「ベトナムニュース」によると、上記4社以外の多くの企業は、セーフガード関税による生産コストの上昇が利益の圧迫を招くとして、セーフガード調査に反対していたという。

 

 一方で同決定によると、ベトナムの輸入額全体の9%を超えない開発途上国あるいは後発開発途上国・地域で、ベトナムへの鉄鋼製品の輸出量がベトナムの輸入量の3%を超えないところについては同措置の適用除外となり、セーフガード関税は課されない。このため、当地の鉄鋼業者の中には、適用除外対象国からの輸入を検討する動きもみられる。例えば、タイとマレーシアは適用除外国なので、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)の原産地証明書「フォームD」を利用すれば低い関税率で輸入できる。

 

<地場鉄鋼メーカーの品質向上とコスト競争力を促す>

 ベトナム鉄鋼協会(VSA)によると、2016年初の高い鉄鋼需要と比べて、今後23ヵ月の需要は一服するとみている。具体的には、6月の建設用鉄鋼製品の国内生産は68万トンで前年同月比16%増だったが、販売は484,000トンで2.4%減だった。これは「一時的な現象」(日系企業)との見方がある一方、グエン・バン・スアVSA副会長は「鉄鋼市況の急落により、現在は当地事業者がリスク軽減のため在庫を持ちたがらない傾向にある」と説明し、加えて、事業者間の競争が激化していることや国内および世界市場での供給過剰もその理由として挙げた(前述の「ベトナムニュース」)。

 

 こうした状況の中、スア副会長は「地場鉄鋼メーカーを守るためにも、保護主義的な措置は必要だ」としている。ただ同時に、これらは短期的な措置にすぎず、国内シェアを維持するためにも地場メーカーは品質の向上やコスト競争力をつけるべきだ、と述べている。

 

(佐藤進)

(ベトナム)

ビジネス短信 c7a53180c733923f