過酷労働従事者の早期退職制度、7月から全面施行

(フランス)

パリ発

2016年07月26日

 「重労働予防個人口座」制度が7月1日、全面施行された。過酷な労働に従事する労働者の早期退職を可能にするポイント制度で、2015年1月から反復作業など4つの労働条件を対象に始まっていたが、2016年7月からは手作業の荷役運搬、騒音のある環境での労働など6つの条件が新たに追加された。

<職種の余命格差を是正する「重労働予防個人口座」>

 「重労働予防個人口座」(2014年12月26日記事参照)は、職種間の平均余命の格差を是正し、早期退職を可能にすることにより労働者に対し補償する制度。過酷な労働に従事する労働者にポイントを付与することで、最高2年までの早期退職を可能とする。同制度は20151月から、(1)夜勤(年間最低120日)、(2)集団労働での夜勤交代制(年間最低50日)、(3)反復作業(年間最低900時間)、(4)水圧・気圧の高い場所での労働(年間最低60回)、の4つの労働・作業を対象に開始されていた。

 

 201671日からは「重労働予防個人口座」が全面施行となり、上記の4つに加え、新たに6つの適用対象が追加された。

 

5)重たい荷役手動運搬(年間最低600時間、注1

6)ひざまずくなど肉体的に厳しい姿勢での労働(年間最低900時間、注2

7)機械の振動を受ける職種(年間最低450時間、注3

8)省令で規定する危険な化学薬品を扱う職種

9)過酷な温度での労働(年間最低900時間、注4

10)騒音の下での労働(年間最低600時間、注5

 

 同制度の施行は、20151月の開始前から「複雑で実施は困難」として経営者の反発を受けていた。政府はそれに応えるため20151月、有識者に制度を簡素化するためのレポートによる提案を依頼し、同年5月に提出された同提案に基づき修正を重ねた。その結果、対象となる時期を明記する個人ファイルの作成義務を廃止し、適用条件を業界が規定する基準に準拠することを可能にするなど制度を簡素化するとともに、企業に準備期間を与えるため20161月開始を予定していた全面施行を同年7月開始に延期していた。

 

<経営者団体は追加対象の不履行を宣言>

 政府は企業への負担を軽減するため、業界ごとに基準を設けることを可能にしたが、71日の同制度の全面施行に伴う新たな適用条件に関する業界の基準策定は進んでおらず、飲料関連の業界団体が唯一、労使間で合意に達している。労使間の合意で業界が策定し政府が承認した基準に従って企業が判断を下す場合、雇用主は従業員各人の労働・作業内容の過酷さを判断する必要はなく、職種や労働内容別に確認するだけでよい。また、従業員との係争があっても罰則や追徴金の対象とはならないと法律で規定されている。

 

 業界の基準がない状態での全面施行に対し、日本の経団連に相当するフランス企業運動(MEDEF)のガタズ会長は「追加された6つの適用対象は施行不可能と、政府に何度も訴えたものの聞いてもらえなかった」として同制度の不履行を宣言している。他方、政府は、既に50万人が「重労働予防個人口座」制度を享受しているとした上で、「2016年と2017年の(毎年の業界ごとの基準の)申告は、例外的に各年9月まで(注6)訂正可能」とし、「中小企業も対応できるよう基準を設定するのは、業界の責任」と、企業に法律順守を促している。

 

(注115キロ以上の荷物の持ち上げ、250キロ以上の荷物の引き押し、10キロ以上の荷物の移動など重たい荷役手動運搬(年間最低600時間)、あるいは手動荷役の荷物の合計が17.5トン以上(年間120日以上)。

(注2)肩より上に手を上げた状態、または、ひざまずく状態、しゃがんだ状態など肉体的に厳しい姿勢での労働(年間最低900時間)。

(注3)手や腕にかかる振動加速度が毎秒毎秒2.5メートル、あるいは全身にかかる振動加速度実効値が毎秒毎秒0.5メートルなど激しい機械の振動を受ける職種(年間最低450時間)。

(注4)摂氏5度以下あるいは30度以上。

(注581デシベル以上の騒音の環境での労働(年間最低600時間)、あるいは135デシベルを頂点とする騒音での労働(年間120回)。

(注6)通常は毎年4月まで。

 

(奥山直子)

(フランス)

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