年金受給に肉体的・精神的負荷を考慮する新制度が新年から施行−最高2年の早期退職が可能に−

(フランス)

パリ事務所

2014年12月26日

フランスでは年金改革の一環として、肉体的・精神的負荷の高い労働に従事する労働者に最高2年の早期退職を可能にする「重労働予防個人口座」制度が2015年1月から施行される。仕事の肉体的・精神的ストレスの重さに対してポイントを付与する制度で、過度の重労働を防ぎ、過酷な労働に従事する労働者に対し補償することを目的とする。財源は企業からの拠出金で賄う。

<夜勤や反復作業などが対象>
「重労働予防個人口座」は、フランスの年金制度を維持していくための改革を盛り込んだ「年金システムの将来と公正を保証する2014年1月20日付の法律2014−40」により新設された制度。2008年の労使合意により認定された一部の業種について、仕事の肉体的・精神的ストレスの重さに対してポイントを付与する。2015年1月から施行され、同制度の適用を受ける労働者は取得したポイントを被保険者期間に変換でき、最高2年の早期退職が可能となる。

対象となるのは民間部門で、有期雇用、派遣労働、パートタイムを含む全ての労働者。雇用主は自社の従業員が対象となるかどうか責任を持って判断し、従業員の1年間平均の通常労働条件において、(1)リスク評価を判別した上で、対象となる部署の年間の見積りを実施、(2)データを給与明細書のためのアプリケーションに入力、(3)アプリケーションにより社会保険料の計算を行い、他の雇用主負担の社会保険料とともに支払う。「重労働予防個人口座」は年に1回、あるいは契約終了時に雇用主が申告し、労働者は転職した場合もポイントを加算できる。

2015年1月から対象となる労働条件・職種は以下のとおり。

○夜勤(年間最低120日)
○集団労働での夜勤交代制(年間最低50日)
○反復作業(年間最低900時間)
○水圧・気圧の高い場所での労働(年間最低60回)

さらに2016年1月1日以降は、以下の労働条件・職種が追加される。

○重たい荷役手動運搬(年間最低600時間)
○ひざまずくなど肉体的に厳しい姿勢(年間最低900時間)
○激しい機械の振動を受ける職種(年間最低450時間)
○危険な化学薬品を扱う職種
○過酷な温度(年間最低900時間)
○騒音(最低年間600時間)

<財源は企業からの拠出金>
同措置の年間の運用費(2015〜2018年)は1億5,500万ユーロと試算されている。財源は企業の拠出金により確保する。重労働に従事している従業員を雇用している企業は、対象となる従業員の賃金総額の0.1%を2015〜2016年に拠出、2017年以降は0.2%拠出する。夜勤で反復作業を行うなど複数のポイント取得要因の重労働に従事している労働者を雇用している企業は、拠出金が2倍となる。さらに2017年以降は、重労働に従事している労働者がいない企業も含め全ての企業は総賃金の0.01%を拠出する。なお、重労働に従事している企業を雇用している企業が支払う2015年分の拠出金の支払期限は2016年1月31日とする。

「重労働予防個人口座」のポイントの取得方法は以下のとおり(表参照)。ポイントの総計は100を超えないものとし、労働者は、a.1ポイントにつき25時間の職業訓練の権利、b.10ポイントごと1四半期分のパートタイム移行(減給なし)、c.10ポイントごと1四半期分の被保険者期間に変換、の中から選択できる。ただし、最初の20ポイント分は重労働を要さない職種への転換ができるよう職業訓練受講が義務となる。2015年1月1日時点で52〜55歳の労働者は、職業訓練受講は10ポイントまでが義務、55歳以上は職業訓練受講の義務はない。58歳6ヵ月以上は取得ポイントが2倍となる。

「重労働予防個人口座」のポイント取得方法

<1人当たり年500〜600ユーロの負担増と経営側は批判>
同制度の施行に当たり、金属産業職連合(UIMM)のジャン=フランソワ・ピリアール代表は「会員企業へのアンケートによると、重労働に従事している、していないにかかわらず従業員1人当たり年間500〜600ユーロの負担増となる。拠出金に加えて、同制度の管理・行政手続きは中小企業には負担となり、雇用に悪影響」と批判した。2014年12月1日には同制度に反対する経営者のデモが行われた。施行令では対象となる労働条件がキロ、デシベル、気温など詳細に規定されている。複雑な制度で実施は困難と訴える経営者に対し、エマニュエル・マクロン経済・産業・デジタル相は実施を容易にするため修正する可能性を示唆、今後の動向が注目される。

(奥山直子)

(フランス)

ビジネス短信 549a1bdf50528