追加関税措置は7月以降も継続-国際収支防衛のため導入、WTOの協議で決着せず-

(エクアドル)

米州課

2016年07月04日

 国際収支防衛のための追加関税措置が7月以降も継続して適用されることになった。政府は4月29日、エクアドル北部沿岸を襲った震災が輸出産業に大打撃を与えたことを主な理由として、6月までの適用期間を1年間延長する決定を下した。決定は6月23日のWTO国際収支(BOP)委員会で妥当性が協議されたが、最終決定には至らなかった。BOP委員会の協議は今後も続けられるが、追加関税の適用はしばらく続きそうだ。

<大震災による輸出産業への打撃を理由に先延ばし>

 ドルを通貨として採用しているエクアドルでは、近年のドル高により周辺国(特にコロンビアやペルー)との間で輸出競争力に差が生じ、重要輸出産品である原油の価格低下も相まって輸出額が大きく減少し、国際収支が危機的状況に陥っている。政府はGATT12条と第18Bに基づき、自国の外貨準備の著しい減少の脅威を予防するため、またはそのような減少を阻止するための一時的輸入制限措置として、20153月から品目別に5%、15%、25%、45%の4種類の追加関税措置を適用した。しかし、GATT152項の規定により、適用し続けるためには当該国がWTOBOP委員会でWTO加盟国と協議し、認められる必要があった(2015年3月20日記事参照)。

 

 エクアドル政府は2015年中に2回、WTO加盟国と協議したが、加盟国間で意見が分かれて結論には至らなかった。政府は1026日付でWTOに通知文書(WTBOPG23)を送付し、追加関税措置の段階的な削減計画を発表した。これに基づき2016131日に従来は45%だった品目の追加関税を40%に削減し、4月以降もは段階的に関税率を引き下げ、最終的に6月には全ての追加関税が撤廃される予定だった。

 

 貿易省、農牧漁業省、産業生産省、経済財務省、企画開発庁の代表らからなる貿易委員会(COMEX)は429日、2016年決議006号を採択し、5%の追加関税については予定どおり撤廃したものの、残りの15%、25%、40%の関税については段階的な削減スケジュールを1年間先延ばしにした。政府はその理由として、416日にエクアドル北部沿岸を襲った大地震の被害を挙げている(2016年4月19日記事参照)。多数の死傷者に加え、30億ドル(名目GDPの約3%)に相当する物的損害がエクアドル経済をさらに深刻な状況に陥らせたとしている(COMEX決議006号前文)。また、WTOへの59日付通知文書の中で、震災地域の主要輸出産品であるマグロ、コーヒー、エビの生産活動への打撃が貿易収支をさらに悪化させたことを指摘している。

 

<追加関税の最終撤廃は20176月の予定>

 COMEX2016年決議006号によると、430日に5%の追加関税が撤廃された約700品目以外の約2,100品目に課されている追加関税は、20174月、5月、6月の3回に分けて段階的に削減され、例えば15%の関税率は4月に10%、5月に5%に引き下げられ、6月に撤廃となる(表参照)。

表 追加関税の撤廃スケジュール

 WTOBOP委員会の協議で、エクアドル政府の措置がWTO違反という結論に達した場合、追加関税措置は予定よりも早く撤廃される可能性はある。しかし、WTO623日付ニュースリリースによると、623日のBOP委員会の協議では加盟国間で見解が分かれている。速やかに追加関税を撤廃し、より貿易制限効果が小さい措置に変更すべきだと主張する加盟国がある一方、エクアドルの置かれている立場(昨今のドル高による輸出競争力の低下、原油価格の低迷による外貨収入の減少、震災の輸出産業や観光収入への打撃)を理解し、エクアドルの措置はWTO違反ではないと主張する加盟国もあるようだ。

 

 BOP委員会の協議は今後も続けられるが、エクアドルの国際収支が大幅に改善する見込みはなく、加盟国との協議が急速に進展することは見通せない。当面、追加関税措置が適用されそうだ。

 

(中畑貴雄)

(エクアドル)

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