政策金利を4.25%に引き上げ-英国民のEU離脱選択に伴う輸入インフレを警戒-

(メキシコ、英国)

メキシコ発

2016年07月07日

 メキシコ中央銀行は6月30日、政策金利を50ベーシスポイント(bp)引き上げ4.25%とすると発表した。直近7ヵ月で3回目の利上げ。原油安と米国の利上げ観測を背景に2015年からペソ安が進行したが、6月23日の英国民投票でEU離脱派が多数となったことが、さらなるペソ安を招いた。中銀は通貨安に伴う輸入インフレに最大の警戒を払うためとしているが、足元の経済活動が停滞傾向にある中、企業の投資意欲や消費者の購買行動にブレーキがかかりかねないとの声もある。

7ヵ月間で3回目の利上げ>

 中銀は630日、政策金利を50bp引き上げ、4.25%とすると発表した。通貨安に伴う輸入インフレの進行を未然に防ぐためとしている。ペソは、原油安や米国の利上げ観測などを背景に、新興国からのマネー引き揚げ、安全資産への資金移動(リスクオフ)の波にさらされている。さらに、新興国通貨の中でも取引量の多さ、流動性の高さから投機的資金の出入りが大きく、これが変動の幅(ボラティリティー)を大きくしている。

 

 実際、中銀はこの7ヵ月の間に3回の利上げを行っている。20151217日には米国の利上げに追随するかたちで25bp引き上げ3.25%としたもののペソ安の流れは止まらず、2016217日にも50bpの利上げを行った。しかし、623日の英国民投票の結果を受けてリスクオフが進み、ペソは一時対ドルで20162月につけた史上最安値を更新、中銀は積極的なペソ防衛策が必要として、630日に50bpの引き上げを行った。

 

 また、大蔵公債省は217日に中銀と歩調を合わせるかたちで、政府の財政運営に対する投資家の信頼を勝ち取るためとして1,323億ペソ(約7,012億円、1ペソ=約5.3円)の歳出削減を行ったが、英国民投票翌日の624日にはさらに3171,500万ペソの追加削減を発表した。

 

 中銀と政府は金融政策と財政政策を駆使し、是が非でもこれ以上のペソ安および輸入インフレの高進を防ぐ姿勢を鮮明にしている。

 

<経済成長の減速懸念も>

 一方、足元のインフレは総合、コア(天候などによる価格変動の大きい農産品や政府の方針で決定される公共料金を除く)ともに中銀の目標レンジ内に収まっている(図参照)。通信改革、エネルギー改革などの政策効果や、原油安に由来する公共料金などの低下が一定程度寄与しているとされる(2015123日記事参照)。ただし、消費者物価の先行指標となり得る生産者物価の上昇率は、2014年が平均2.67%、2015年が平均2.88%だったのに対し、2016年は5月までで4.37%、5月だけみると5.04%と上昇圧力は高まっている。コアインフレ率が総合インフレ率を逆転し、じりじりと上昇してきていることは、これまでは流通段階である程度吸収していた上昇圧力を、徐々に最終消費者へ転嫁せざるを得なくなっていることを示している可能性がある。

図 政策金利とインフレ率の推移

 しかし、こうした利上げや歳出削減は経済成長を減速させかねないとの懸念もある。利上げによる企業の投資意欲や消費者の購買行動への影響、歳出削減による公共支出、公共投資の減少を通じた企業への影響など、副作用のほうが甚大ではないかというものだ。

 

(中島伸浩)

(メキシコ、英国)

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