日系企業は為替リスクとビジネス環境変化を懸念-英国民投票結果のドイツへの影響(2)-

(ドイツ、英国)

デュッセルドルフ発

2016年07月01日

 英国のEU離脱問題はドイツでビジネス活動をする企業にどのような影響をもたらすのか。連載の後編は、ドイツの主要輸出産業である自動車産業と化学・医薬品産業への影響を解説する。また、在ドイツ日系企業への影響と、英国のEU離脱への動きをどうみているかについて報告する。

<国民投票前は6割のドイツ企業が影響なしと回答>

 ifo経済研究所が、英国での国民投票に先立って、ドイツ企業1,478社に対して実施したアンケート調査(実施期間6621日)によると、英国のEU離脱がビジネスにマイナスの影響があると答えたのは38%だった(図参照)。一方、過半数の61%が影響なしと答え、1%がプラスの影響があると回答した。中小企業に比べて大企業にマイナスの影響が出るとする回答が多く、産業別にみると電子産業と自動車産業で目立った。

図 英国のEU離脱がビジネスに与える影響

 ドイツに立地する多くの企業にとって、英国のEU離脱の経済的影響は、今後の英国・EU間の貿易関係次第で、ビジネス上の不確実性がどの程度長引くかに大きく左右される。ドイツ機械工業連盟(VDMA)は「ドイツの機械・エンジニアリング産業の業績は(企業の設備投資に依存することから)欧州の政治の安定に大きく依存している。英国・EU間の通商上の取り決めを早急に確立することが必要だ」と624日に声明を出した。ドイツ自動車産業は「英国・EU間に関税がかかることは誰の利益にもならない」〔ドイツ自動車工業会(VDA)のマティアス・ビスマン会長〕、自動車産業や機械産業が集積するバイエルン州も「英国・EU間の通商ルールの早期明確化が重要」(イルゼ・アイグ州経済相)とのコメントを出している。

 

<英国での生産コスト増大を懸念>

 英国・ドイツ間の通商ルール策定に関して、ドイツ自動車産業の注目度は高い。乗用車および部品は対英国主要輸出品目で、全体のおよそ3割を占めている(2016年6月30日記事参照)。貿易収支は、2137,800万ユーロと大幅な黒字。VDAによると、英国は最大の自動車輸出先で2015年の輸出台数は81万台、英国の新車登録台数260万台の約半数はドイツブランド車(ドイツ国外生産分を含む)だった。ifo経済研究所によると、英国とEUとの通商関係がWTO協定モデルとなった場合(2016年6月22日記事参照)、英国経済と英国に生産拠点を持つドイツ自動車メーカーに特に大きな影響が出るとしている。日系の複数の自動車メーカーは英国で生産しドイツで販売しているため、日本企業にも影響が出ることが想定される。

 

 ドイツの化学産業も影響を懸念している。ドイツ化学産業連盟(VCI)は、投票日前に声明を出し、英国にEU残留を呼び掛けていた。VCIによると、英国向け主要品目は特殊化学薬品と医薬品で、英国はドイツに医薬品の材料と石油化学品を輸出。英国に進出しているドイツの化学・医薬品企業は63社だという。VCIは、英国のEU離脱の悪影響は英国がより多く受けるが、中期的には、化学・医薬品の英国への輸出減少と両国間の投資活動の阻害を指摘している。在ドイツ日系企業の中には、英国で化学物質規則(REACH)と異なる法体系ができることに懸念を示す企業もあった。

 

<在ドイツ日系企業は50社中30社が「影響あり」>

 ジェトロが投票日前後に英国と何らかのビジネス上の関係を持つ在ドイツ日系企業50社に対して行った聞き取り調査によると、程度の差はあるものの、多くの企業が何らかの影響を懸念している結果になった。具体的には、何らかの影響があると回答した企業は30社で、多くの企業が英国との直接的なビジネスではなく、欧州全体の景気の悪化とユーロ・ポンド下落による円高という間接的影響を挙げた(注)。英国市場の縮小、関税が導入された場合の輸出競争力の低下、英国でのビジネス環境の変化など直接的な理由を挙げたのは17社だった。医療分野では、英国経済の停滞が税収を悪化させ入札案件が減少する懸念、金融分野では、ロンドンの統括拠点の大陸への移転や安全貿易規定の強化、情報の移動の制約、英国との取引に付随する付加価値税(VAT)処理の煩雑化などの声が上がった(添付資料参照)。13社は対英国ビジネスを行うものの「影響なし」と答え、7社が英国・EU間の貿易関係次第のため「不明」と答えた。

 

 また、在ドイツ日系企業を中心に525社の会員で構成されるデュッセルドルフ日本商工会議所の小林二郎会頭は624日、「英国のEU離脱は、EU市場の不透明さの増大という面で、在ドイツ日系企業にとってもリスクが高まると想定され、また為替・株価の大幅な変動が企業業績に与える影響も懸念される。金融市場の早期回復と、EUの将来に向けた前向きな対応を期待したい」と声明を出した。

 

 ジェトロがドイツ企業に対して行ったヒアリング調査では、「英国・EU間の関税障壁がない合意を期待したい。関税がかかかるようになるとマイナス影響」と答えた企業もあったが、「英国による離脱通告後の2年間で体制を整えることが可能なため、影響はない」という回答が多かった。

 

(注)自由回答のため、影響要因は複数回答となり、足し上げても全体数とはならない。

 

(福井崇泰、平林孝之、ザンドラ・ペータース)

(ドイツ、英国)

ビジネス短信 194ff0fedb61fded