ウスチ・ルーガ港は鉄道直結の輸送環境が強み-開発状況セミナーと視察会開催-

(ロシア)

モスクワ、サンクトペテルブルク発

2016年06月13日

 サンクトペテルブルクの西130キロに位置するウスチ・ルーガ港(ULP)は、サンクトペテルブルク港(SPBP)の混雑緩和の切り札として開発が進められている。2008年に多目的ターミナルの運用が開始されて以降、年々貨物取扱量を拡大させている。ジェトロは5月12~13日に、同港の開発状況に関するセミナーと視察会を開催した。その模様を報告する。

<サンクトペテルブルク港に比べ数多くの長所>

 ULPを運営するウスチ・ルーガ商業港のリディヤ・エフレモワ販売・マーケティング部長は、開発の経緯を以下のように説明した。

 

 ULPはレニングラード州の西部、エストニア国境近くに立地している。ロシア初の官民連携(PPP)方式による港湾グリーンフィールド開発プロジェクトだ。ソ連崩壊により、バルト海沿岸港の多くが別の国のものになってしまったこと、ロシアのバルト海域の港湾がサンクトペテルブルクに集中し(図参照)、SPBPの開発余地に限界があること、SPBPがフィンランド湾の水深の浅い海域に位置していること、などがULP開発のきっかけとなった。

図 サンクトペテルブルクおよび周辺の港湾

 ULPの主なターミナルの概要と貨物取扱量の推移は添付資料と表のとおり。エフレモワ氏と、ターミナルの1つを運営するウスチ・ルーガ・コンテナターミナルのワシリー・シュリツェフ事業部長によると、SPBPと比べたULPの長所は、a.水深が13.5メートルと深いこと(SPBP11メートル)、b.アプローチ航路(注1)が短いこと、c.航路の水深が18メートル、幅が180メートルあり、船舶の行き違いが可能なこと(SPBPは一方通行で行き違い不可)、d.冬季に砕氷船を利用しなければいけない期間がSPBPに比べ1ヵ月~1ヵ月半短いこと、e.(飛び地のカリーニングラードを除くロシア本土で)欧州に最も近いロシア海港であること、f.周辺地域の開発余地が大きく、発電所にも近いこと、g.貨物船専用の港であること(SPBPは客船も対象)、などだ。

表 ウスチ・ルーガ港の貨物取扱量の推移
写真 ウスチ・ルーガ・コンテナターミナルの様子(ジェトロ撮影)
写真 多目的積み替えコンプレックス「ユク2」の様子(ジェトロ撮影)

<鉄道輸送の割合が徐々に拡大>

 さらに、両氏によると、ULPの強みは鉄道に直結していることだ。ULPの主要株主にロシア鉄道が参加していることもあり、港につながる鉄道の整備に力を入れている。ULPからモスクワ周辺に向けては、モスクワ市北西部ホブリノ(週3回)とカルーガ州北東部ボルシノ(週2回)にブロックトレイン(注2)が定期的に運行している。運行時間はそれぞれ21時間と36時間。同鉄道は、サンクトペテルブルク市西部境界近くに位置するムガ駅を経由するルートのため、旅客車両と貨物車両で混雑するモスクワ~サンクトペテルブルク間の路線を使わなくてよく、時速100キロまで速度を上げることができる。また、港湾敷地内に支線が多数あり、車両操車場の処理能力は1日当たり5,000車両。シーメンス製システムで、駅での動きやプロセスをほとんど自動化している。2015年は1日当たり3,500車両を処理した。

 

 モスクワからウスチ・ルーガ港まで陸上輸送する場合、タリン街道(サンクトペテルブルク市)と連邦道「M11」を通じて地方道「R35」および「R42」でアクセスできる。R42はタリン街道からULPへ向かう支線だが、非常に整備されていることが視察会で確認できた。エフレモワ氏の話では、現在、ULPとベリーキー・ノブゴロドをつなぐ道路が建設中で、これが開通すれば、モスクワ~サンクトペテルブルクと、モスクワ~ウスチ・ルーガまでの距離の差はわずか33キロとなる。

 

 ウスチ・ルーガ・コンテナターミナルを所有するグローバルポートの資料によると、輸入貨物を輸送手段別にみると、2014年はトラックが80%、鉄道が20%だったが、2016年第1四半期にはそれぞれ67%、33%となり、鉄道輸送の割合が徐々に拡大している。ブロックトレインの仕向け先は、2014年半ばまでニジュニ・ノブゴロド向けが過半を占めたが、その後、ゼネラルモーターズ(GM)が同地での委託生産から撤退したこともあり(2015年3月23日記事参照)、現在はホブリノとボルシノ行きのみとなっている。

 

<周辺に工業・輸送・物流団地も造成する計画>

 エフレモワ氏と、レニングラード州政府のオリガ・ボリセンコ経済発展・投資委員会投資環境改善課長は、今後の計画について以下のように紹介した。

 

 ULP周辺地域の開発も進められている。レニングラード州政府としては、同港周辺に石油ガス化学クラスターを形成させる計画で、液化天然ガス工場、メタノール工場、カルバミド工場、アンモニア工場を設置するプロジェクトが進展している。加えて、入居企業数100社、従業員数17,000人を想定した総面積2,500ヘクタールの工業・輸送・物流団地が造成される計画だ。レニングラード州は特定の産業分野(注3)の、一定の金額を超える投資の場合、企業利潤税(法人税)引き下げ(地方分18%を最大13.5%に)、資産税免除などの恩典を提供する。

 

 さらに、ウスチ・ルーガに市街地を建設する計画もある。面積は1,849ヘクタールで、エフレモワ氏によると、港湾労働者や石油化学産業の従業員など港湾関係者を含む人口規模34,500人を想定しており、観光ゾーンや農業複合体も設置する予定とのことだ。

 

(注1)外海から湾内の停泊地までの航路。

(注2)列車1編成の貨物全てが、同一の起点と終点で輸送される貨物列車のこと。

(注320121229日付レニングラード州法第113oz号。

 

(齋藤寛、宮川嵩浩)

(ロシア)

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