自動車の安全装備規格を公布、2段階に分け実施へ

(メキシコ)

メキシコ発

2016年05月23日

 自動車の安全基準に係るメキシコ公式規格(NOM)が5月9日、連邦官報で公布された。これまで新車の装備について明確な規定がなかったが、最低限の安全装備とは何かが明確化された。2段階に分けて実施される。草案には盛り込まれていなかったアンチロックブレーキシステム(ABS)やシートベルトリマインダーは第2段階の装備に加えられ、エアバッグは明確でないものの、第2段階の衝突性能試験をクリアするために事実上必要な装備となる。第1段階は公布180日後、第2段階は3~4年後に施行される。

<エアバッグも事実上義務付け>

 59日付官報で公布された「メキシコ公式規格:新車の安全基準に係る不可欠な装備」(NOM194SCFI2015)は、201411月から議論が開始され、20152月に草案が出されていた(2016年1月22日記事参照)

 

 今回の公布によって、対象となる車両総重量3,857キロを超えない新車を国内で流通させるには、シートベルト、バックミラーなど間接視野を確保できる装備、パーキングブレーキ、バックライトなどを装備することが義務付けられた。また、草案から変更が加えられ、ABSとシートベルトリマインダーも装備が義務付けられた。エアバッグについては明確に装備を義務付けられていないが、衝突性能試験(正面、後方)では装着していないとクリアできないことが見込まれており、エアバッグの装備も事実上義務付けられたといえる。それぞれの装備ごとに米国、欧州、日本、韓国、ブラジルないし国連基準のいずれかに適合することが求められ、規格に適合しているかどうかの評価は、指定された第三者検証機関(Unidad de Verificacion)が行う。

 

 公式規格の付則第1条によると、第1段階の安全装備については公布180日後から、第2段階の衝突性能試験およびABS、シートベルトリマインダーについては、発効日以降に発売される新型モデルは3年後から、発効日に既に生産されているモデルは4年後から、それぞれ適用される。適用日を前倒しする議論もあったが、見送られたようだ。いずれにせよ、メキシコ国内向けにカスタマイズされている一部の車種では、仕様の変更などの対応が求められそうだ。

 

<新車が37%値上がりするとの予測も>

 さらに、自動車の販売価格面でも変化がありそうだ。地方紙「バングアルディア」(電子版517日)では、今回の安全規制強化によって新車の販売価格が37%程度上昇するだろうと報じられている。同紙は、例えばメキシコで生産されている日産の「ツル」は141,300ペソ(約847,800円、1ペソ=約6.0円)から151,000ペソ程度に、フォルクスワーゲン(VW)の「ゴル」もエアバッグ、ABSを装備することにより、154,000ペソ程度に値上がりするだろうとしている。ゼネラルモーターズ(GM)のギド・ビルドソ・マーケティングディレクターも「技術を付加すればコストがかかる」と、価格上昇の可能性を示唆している。

 

 国内では、公布された安全基準を評価する声と、不十分だという意見に二分されている。メキシコ自動車工業会(AMIA)のエドワルド・ソリス会長は「今回の公布を歓迎する。パブリックコメントの全てが反映されている」と述べ、メキシコの自動車安全基準が世界基準に並んだものと評価した(「エル・エコノミスタ」紙電子版517日)。一方で、横滑り防止装置、チャイルドシート固定金具といった装備が義務付けられなかった点を取り上げ、安全対策上、不十分だとの指摘もある。「エル・ウニベルサル」紙(電子版59日)は、公布された安全基準を「25年前の規制」としており、前述のような安全装備を満たさない限り、EUなどと同等の基準にはならないと報じている。

 

(岩田理)

(メキシコ)

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