輸出企業の外貨建て融資が4月から一部不可能に

(ベトナム)

ホーチミン発

2016年04月15日

 ベトナムの輸出企業は4月1日から、内貨需要のために国内で外貨建て融資を受けることができなくなった。事業拡大のため製造設備・機械などを調達したい企業にとって、現地通貨建ての資金調達を強いられることは、金利の内外格差と為替切り下げリスク、担保差し入れなどを考慮すると頭の痛い問題だ。背景には2015年の貿易収支が35億ドルを超える赤字になったことがあるとみられる。

<為替・物価のコントロール強化が狙いか>

 ベトナムの輸出企業は201512月末まで、輸出促進のため短期資金の調達手段として、国内の金融機関から外貨建て融資を受けることが可能だった。中央銀行通達432014TTNHNN20141225日公布、201511日施行)第3c項に、以下のような記載がある。

 

○ベトナム製造品および商品の海外への輸出のため、短期的内貨需要の必要なベトナム企業は、輸出売り上げで融資金額を十分返済可能である場合、20151231日まで国内金融機関から外貨建て短期融資を受けることが可能。

 

 昨年末の期限が迫るに当たり、中央銀行は通達242015TTNHNN2015128日公布、201611日施行)を公布し、第3c項は以下のように改められた。

 

○ベトナム製造品および商品の海外への輸出のため、短期的内貨需要の必要なベトナム企業は、輸出売り上げで融資金額を十分返済可能である場合、2016331日まで国内金融機関から外貨建て短期融資を受けることが可能。

 

 この通達24号の331日までという期限が迫り、期限の再延長があるのではないかとの期待があったが、期限が過ぎても再延長の動きはなかった。2015年の貿易収支(添付資料の図13参照)が原油安などを背景に約354,000億ドルの赤字となり、急激な通貨安と、それによる対外債務支払い負担増加、輸入インフレを抑えたいというのが今回の措置の狙いではないかとみられる。

 

<自己資本が足りない地方の中小企業にはダメージ>

 ベトナムの輸出企業は縫製・靴などに代表される労働集約型で輸出加工型の企業が多い。特に地方の中小企業は自己資本が不十分で、業務拡大に当たっての製造設備・機械の調達については、輸出売り上げを原資とした国内金融機関からの短期外貨建て借り入れに依存してきた。41日以降はこの方策が取れなくなっており、今後少なからず影響が出るのではと懸念されている。加えて71日から施行される中古機械の輸入規制強化(原則製造日より10年以内に限り輸入可能)も頭の痛い問題だ(2015年12月3日記事参照)

 

 ベトナムの日系企業が外貨建て借り入れをする場合は、日本の親会社からの「親子ローン」で対応することがほとんどで、ベトナムの地方企業ほど今回の通達による影響は大きくないとみられるものの、日本に基盤を持たずベトナムで起業した農業分野などのベンチャー企業で、輸出事業を拡大している企業にとっては痛手になりそうだ。国内社債市場も十分発達しておらず、資金調達が容易ではないというベトナムの課題が露呈することになる。現在、ベトナムの輸出は6割近くが外資系企業によるものだが、今後は地方の中小企業の輸出について金融面での支援の充実が望まれている。

 

(栗原善孝)

(ベトナム)

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