発言力増す欧州議会の理解求める活動も重要に-EU環境セミナー(2)-

(EU)

ブリュッセル発

2016年04月07日

 EU環境セミナー報告の後編は、最近の環境政策と化学物質規制について。東芝ヨーロッパは「循環型経済政策」について、堀場製作所は特定有害物質使用制限(RoHS)改正指令について、ADEKAは化学物質規則(REACH)やナノ材料などについて解説した。



<製品のライフサイクル全段階で資源節約を目指す>


 東芝ヨーロッパの池田理夫シニアマネジャーは、資源の節約と革新的な製品・サービスによる経済・競争力促進の両立を目指す「循環型経済」に関するEUの取り組みについて、次のように紹介した。


 


 欧州委員会が201512月に発表した関連政策文書(2016年1月6日記事参照)は、規制とインセンティブにより、製品のライフサイクル全段階における資源の節約を目指すものだ。今後、エコデザインの枠組みへの、製品の修理可能性や耐久性などの項目の追加や、消費者への適切な情報提供などを盛り込むことが検討される。同文書は、廃棄・リサイクル段階における生産者責任に関わる経済的インセンティブによる、製品設計への資源効率の導入促進や、2次原材料の品質基準策定、電子データを活用した廃棄物の域内越境手続きも提案している。企業にさらなる情報提供が要求される可能性もあるため、注意が必要だ。提案には、研究開発への資金提供や実施監視の仕組みも盛り込まれた。


 


 提案に対してEU加盟国は、総論としては賛成だが、政策効果の評価を要求している。一方、欧州議会は製品寿命の短期化や計画的陳腐化を懸念しており、立法プロセスでは、こうした意見の影響を見極める必要がある。また、製品設計に関連するさまざまな標準・基準策定の情報収集を心掛け、今後、想定される情報提供の要求に対応するため、自社の製造工程にも目配りする必要がある。


 


RoHS指令には使用可能の例外も>


 次いで、堀場製作所品質保証統括センターの佐々木晋哉欧州担当部長が、RoHS指令と今後の見通しについて、以下のように概説した。


 


 RoHS指令は、電気・電子機器を対象に、鉛や水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール、ポリ臭化ジフェニールエーテルの6物質の使用を制限している。さらに、2019722日からフタル酸エステル類の4物質(DEHPDBPBBPDiBP)が、一部の対象製品から順次、使用禁止となる。ただし、現在の技術では使用禁止物質を使わずに対応することが難しい場合に限り、「適用除外用途」として例外的に使用が認められている。製品ごとではなく、用途ごとに申請して認可された物質が、一定期間に限って使用可能となる。


 


 注意すべき点として、適用除外用途の更新申請が却下された、または削除申請が承認された場合は、官報公布から1218ヵ月の移行期間が設けられているのに対して、新規申請が却下された場合は移行期間が設けられていない点だ。さらに、代替技術の革新による競合メーカーの削除申請の動向なども注視する必要がある。


 


 現在のところ、適用除外用途の申請プロセスが変更される予定はないが、最近の動向として、欧州委の決定に対する欧州議会の発言力が増してきており、欧州委だけでなく、欧州議会に対しても理解を求める説明などの活動が重要になってくる。


 


<近づく化学物質の最後の登録期限>


 セミナーの最後に、ADEKA欧州駐在員事務所の川崎秀夫代表が、ナノ材料規制と殺生物性製品規則(BPRジェトロ調査レポート参照)、内分泌かく乱物質(ED)、REACHの動向を紹介した。主なポイントは次のとおり。


 


 EUでは、ナノ材料の定義の検討作業が進む一方、加盟国によってはナノ材料の届け出制度を導入済みもしくは近く導入予定のため、欧州委はEUで統一された届け出制度の導入について検討している。また、BPRは企業にとって制度の運用に不明確な点があり、欧州委が各種ガイダンスを作成中だ。現時点で不明な点があれば、域内の産業団体のガイダンスが参考になるだろう。一方、欧州委は2016年夏前にEDに関する影響評価を公表する予定だ。影響評価の内容次第では、EDに分類される物質が増加し、REACHの高懸念物質(SVHC)に指定される可能性もある。


 


 REACHは、化学物質の最後の登録期限が近づいており、手続きの混雑を避けるため早めの対応が好ましい。「1物質1登録」の原則(OSOROne Substance, One Registration)が導入された点も要注意だ。また、疑わしい物質はとりあえずSVHCに認定し、時間をかけて検討する傾向があるため、早期の対応が重要だ。このほか、EU司法裁判所が示した、成形品中のSVHCの濃度の算出基準(2015年9月15事参照)を反映した、新ガイダンスが2017年に公表される予定だ。ビスフェノールAの規制の検討も進んでおり、SVHCに指定される可能性がある。


 


(大中登紀子、村岡有)



(EU)

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