ウラジオストク自由港、簡易ビザ制度導入は7月か－15社が入居済み、日本企業1社も申請－

＜土地税の減免には15地区の条例改正が必要＞

　2015年10月の連邦法施行で発足したウラジオストク自由港では、入居が承認された事業者に対してさまざまな税制優遇や規制緩和措置が取られる（2015年7月31日記事参照）。また、自由港の対象区域内の地点から最大8日間の滞在を限度に入国すると、同地点でビザが発給されて事前取得が不要となる簡易ビザ制度、区域内で加工・製造などをするために輸入する物品や設備に対する関税が免除される自由貿易地域の適用、などもある。しかし当初、2016年1月から実施とされていた簡易ビザ制度はまだ実現しておらず、制度導入の遅れが出ている。

　極東開発公社ウラジオストク自由港申請審査課のデニス・ガリン課長にインタビューしたところ（3月15日）、税制面では1月から企業利潤税（法人税）、資産税、社会保険料の減免措置が導入されているという。土地税は行政地区の条例で定められているため、減免には各地区の条例を改正する必要がある。ガリン課長は「自由港の領域には15の行政地区があり、現時点でウラジオストク市のみが改正済み」と述べた。

　インターファクス通信（3月14日）によると、ガルシカ極東発展相は、7月から簡易ビザ制度を導入することを明らかにした。当初は対象区域内にある全ての入国地点で簡易ビザが発給されることとなっていたが、ウラジオストク国際空港とウラジオストク旅客港で先行して導入される見込みだ。ガリン課長は「日本企業関係者のほとんどは飛行機で入国するため、大きな影響は生じないだろう」と語った。

　ガリン課長によると、自由貿易地域は10月から導入の見込みで、連邦税関局が手続きや優遇措置の詳細を検討している。通関に加えて、動植物検疫や衛生検査を含めた貿易関連手続きのワンストップ化についても連邦税関局などと協議中で、10月から開始の見込み。連邦税関局で内部規則を準備しているところだという。

　外国人による医療・教育行為の認可についてもまだ導入されておらず、実施に必要となる連邦法案を極東発展省が準備中だ。導入されれば、本国で医療・教育免許を持つ外国人が、対象区域内でロシアの免許なしに行為することが認められるようになる。

　入居の申請は、極東開発公社のウェブサイトを通じて行う。その後、公社と連絡を取り合って入居申請文書を準備する。入居申請文書はロシア語で作成する必要があり、外国語文書（例えば、入居事業者の親会社の登記文書）をロシア語に翻訳したものは公証が必要になる。検討結果は原則として、入居申請後15営業日以内に回答がある。

＜日本企業が石炭輸出ターミナル建設を計画＞

　自由港の第3回監督委員会が3月24日に開催され、29件の入居申請が承認された。今後、極東開発公社と協定の締結を済ませると、正式な入居事業者となる。申請では「新石炭ターミナル」がこれまでの最大となる投資額（約650億ルーブル、約1,040億円、1ルーブル＝約1.6円）を提示した。ナホトカ港とボストチヌィ港の間にあるパルチザンスカヤ川の河口付近に石炭ターミナルを建設し、中小規模の石炭生産企業から集めた石炭をアジアに輸出する計画だ。

　「コメルサント」紙（3月25日）によると、「新石炭ターミナル」は日本企業・東星の100％子会社で、経営者はアレクセイ・シェピン氏。ターミナルは年間2,000万トンの石炭取り扱い能力を有するという。

　同紙は、計画に疑念を抱く専門家の意見を紹介している。港湾専門ニュースサイト「ポートニュース」のナデジダ・マルィシェワ営業部長はその理由の1つとして、事業計画で提示されている石炭量を収集できる根拠が示されていないことを挙げた。金属業界誌を発行するメタルインフォのレオニド・ハザノフ副編集長は、石炭の国際価格や中国を中心とした世界的な需要が低迷しているため、「事業はすぐに投資回収できないのは明らか」とし、「（石炭の）市場価格や（石炭を輸送する）ロシア鉄道の価格政策次第だ」と述べている。

　なお、極東開発公社の発表（3月29日）によると、同日時点で極東開発公社と協定を締結して正式に入居事業者となったのは15社という。

（浅元薫哉）