実効的な課税実現に向け6つの施策を提案-EUの「租税回避対策パッケージ」(1)-

(EU)

ブリュッセル発

2016年03月03日

 欧州委員会は1月28日、多国籍企業の租税回避対策に関する政策文書をまとめた「租税回避対策パッケージ」を発表した。多国籍企業の過剰な節税への批判の高まりを受けた、租税回避対策の一環となる。パッケージに含まれる一部の施策は、OECDとG20が主導する「税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画」にも対応している。パッケージの概要を2回に分けて紹介する。

<加盟国間の政策協調を図る>

 このパッケージは、欧州委が20156月に発表した「法人課税に関する行動計画」(2015年7月1日記参照)の一部を具体化するものだ。3つの大きな目的、すなわち(1)「実効的な課税(effective taxation)の実現」、(2)「課税の透明性の向上」、(3)「公平な競争条件の確保」を目指し、租税回避を行う隙を与えないよう、加盟国間の政策協調を図る。パッケージに含まれる主な文書は次のとおり。

 

○租税回避に対する規則を定めるEU理事会指令案(租税回避対策指令案)

行政協力201116EU)を改正する理事会指令案

○効果的な課税に向けた対外戦略に関する指針

○租税条約の乱用対策に関する欧州委員会勧告

 

 本稿では、上記3つの目的のうち(1)「実効的な課税の実現」のための施策の概要を紹介する。

 

3つの施策はBEPS行動計画を反映>

 EU理事会の「租税回避対策指令案」は、実効的な課税の実現に向けたEU域外への租税回避対策として、6つの具体的な施策を提案した。そのうち、次の3つはBEPS行動計画の一部の項目を反映したものだ。

 

○外国子会社(CFC)ルール:EU加盟国に拠点を置く企業が、法定税率が当該加盟国の40%未満の第三国・地域に設立した子会社に利益を移転した場合、移転した利益に課税する。企業が移転先で支払った税は控除の対象となる。

 

○利子制限:加盟国で利子の支払いが控除対象となることを利用し、低税率の第三国・地域に設立したグループ企業に対する高利率の負債を作り、課税所得を圧縮する手法を防ぐため、控除対象となる利子を原則、税引き・利払い・減価償却前利益(EBITDA)の30%までに制限する。

 

○ハイブリッド・ミスマッチ:加盟国間での特定の収益や法人設立形態などの税法上の扱いの差異(ハイブリッド・ミスマッチ)を利用した、利益の移転などによる租税回避への対策として、こうした差異が生じた場合、移転元となる加盟国における設立形態や収益などの法的な性格付けを、移転先の加盟国でも適用する。

 

<一般的租税回避防止規則なども提案>

 6つの施策のうちBEPS行動計画に含まれない3つの施策は次のとおり。

 

○スイッチオーバー・ルール:低税率の第三国・地域の企業や恒久的施設からの配当金やキャピタルゲインがEUでも免税されることを防ぐため、極めて低税率もしくは無税の第三国・地域からの収益に課税する。

 

○出国課税(Exit Taxation):特許など知的財産の開発費用を課税所得から控除する一方、知的財産収入への課税回避のため、権利を低税率の第三国・地域に移転するケースがある。知的財産収入に適切に課税するため、知的財産権の域外への移動に対して課税する。資産の移動は企業のバランスシートから把握する。

 

○一般租税回避防止規則(GAAR):個別の租税回避対策ルールでカバーされていない「技巧的な」納税の仕組みに対して、実態的な経済活動に基づいて課税する。

 

 また、OECDBEPS行動計画は、租税条約に乱用防止規定を盛り込むよう提案していた。「租税条約の乱用対策に関する欧州委員会勧告」は、EU法を順守し、単一市場における拠点設立の自由を侵害することなく、乱用防止規定を導入するための勧告をまとめたものだ。

 

(村岡有)

(EU)

ビジネス短信 a297ec6c9986df9e