欧州委、法人課税に関する行動計画を発表-非協力的な第三国・地域のリストを公開-
(EU)
ブリュッセル事務所
2015年07月01日
欧州委員会は6月17日、法人課税に関する行動計画を発表した。企業の過剰な節税や課税逃れ対策を目的とするもので、共通課税標準の導入や企業が利益を生み出した場所での課税、課税の透明性の向上などを打ち出した。
<法人税制の近代化を図る>
欧州委は2015年6月17日、法人課税に関する行動計画を発表し、同時に法人税の透明性に関するパブリックコンサルテーション(公開諮問)を開始した。欧州委は2014年12月に発表した2015年の作業プログラムにおいて、企業の過剰な節税と加盟国間の税率の引き下げ競争への対策を23のイニシアチブの1つに位置付けていた(2014年12月19日記事参照)。また、2015年3月18日には企業の過剰な節税への対策に向けた一連の施策(2015年4月7日記事参照)を発表していた。
欧州委は、現行のEUの法人税制は1930年代の法律に基づいており、現代の経済活動に適合しておらず、一部の企業は加盟国間の税制の調和の欠如に乗じて、域内での課税を逃れていると指摘。これにより、加盟国の税収が減少し、一部市民の税負担が増大、公正な税を支払う企業が競争で不利な立場に置かれるなど、市場のゆがみの原因となっているとしている。
こうした状況を是正するため、欧州委は次の目標を打ち出した。
○企業が利益を生み出した場所での納税
○移動可能な課税ベースの競争にさらされることなく、経済成長に配慮した課税を実現する
○ある加盟国の優遇税制によって他の加盟国の税収が減らないようにする
○公正な企業が、課税逃れをする企業との競合に負けないようにする
○域外の第三国が企業にEUからの利益移転をそそのかすことがないようにする
<CCCTB指令の成立を目指す>
欧州委は目標達成に向けて、共通連結法人税課税標準(CCCTB)指令案(注1)の議論の再開などのイニシアチブを打ち出した。CCCTB指令案は加盟国ごとに異なる税制に起因する過剰な課税や、コンプライアンスコストの増加を解消することを目的に、EU域内のグループ企業の利益の共通の計算方法を提案した法案だ。欧州委が2011年に提案したが、一部加盟国の根強い反対により成立しなかった。
欧州委は、CCCTBは加盟国間の税制の違いを利用した課税逃れを防止する手立てにもなるとして、同法案を2016年に再提案する。大企業などを中心にCCCTBの導入を義務付ける一方で、当初案が頓挫した経緯を踏まえ、まずは共通課税標準や税源浸食と利益移転への対策を導入し、連結決算などは後から導入する計画だ。
同時に、欧州委は企業が利益を生み出した国で公正な税を支払う「実効的な課税(effective taxation)」の実現を目指す。加盟国間の法人税率を統合しなくても、利益移転対策や、企業が課税されるべき場所の見直しなどの施策が可能だとしている。また、移転価格税制を改善し、優遇税制に関するより厳格なルールを実施することで、各加盟国の課税ベースを保護する。
<非協力的な第三国・地域を監視>
行動計画は、EU域内および域外の第三国との間の課税の透明性の向上に向けて、非協力的な第三国・地域に対するEU共通のアプローチを打ち出し、その第一歩としてこれら国・地域のリストを公開した。このリストは非協力的な国・地域を監視し、対策を支援することを目的としており、各加盟国が非協力的と判断した国・地域を閲覧できる。同リストには、バハマやバルバドス、英領バージン諸島、ナウル、バヌアツなどが含まれている。
さらに、欧州委は法人課税の透明性改善に向けて、企業が国別報告などを通じて、課税情報を公開すべきかについての公開諮問を開始した。欧州委は課税逃れや過剰な節税対策の一環として、諮問の結果や現在実施中の影響評価を、課税情報の公開に関する政策決定の検討材料とする。
<域内の企業活動にも配慮>
このほか欧州委は、投資家や企業が求める法人税制の法的安定性や管理負担の軽減を実現すれば、EUの経済成長や競争力に貢献できると指摘。EU域内市場で国境を超えて活動する企業に対する税制上の障害を取り除き、簡易で魅力的な税制を実現することを行動計画に盛り込んだ。
また、欧州委は、課税逃れ対策には加盟国間の協調が欠かせないとして、加盟国の協調改善と、現行体制の運用の改革を提案した。例えば、加盟国間の税率の引き下げ競争など、有害な優遇税制への対処を目的とする、行動規範グループ(注2)の権限などを見直す計画だ。
なお、欧州委はこれらのイニシアチブの実現に向けたスケジュール表も公開している。
(注1)ジェトロ調査レポート「EUのCCCTB(共通連結法人税課税標準)指令案の概要と今後の見通し」参照。
(注2)有害な優遇税制と行動規範グループについては、ジェトロ・ユーロトレンド2002年5月号、「『有害』な優遇税制の行方」を参照。
(村岡有)
(EU)
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