輸入水産物のトレーサビリティー規則案を公表

(米国)

ニューヨーク発

2016年03月01日

 商務省海洋大気庁海洋漁業局(NMFS)は、輸入水産物を対象とするトレーサビリティープログラムの規則案を2月5日に公表した。それによると、対象となる水産物および水産加工品を米国に輸入する者は、その水産物が違法・無報告・無規制(IUU)漁業により漁獲されたものでないこと、偽装表示されたものでないことを示すため、輸入時に漁獲情報などの報告と記録保存が求められる。規則案はパブリックコメント(4月5日まで公募)を経て、9月から実施に移される。

<クロマグロも一転して対象種に>

 米国では2014年にIUU漁業および水産物偽装撲滅のための大統領タスクフォースが設立され、20158月にはトレーサビリティープログラムの水産物を選定する基準案と候補種案が公表された(2015年9月9日記事参照)1030日にはパブリックコメントを反映したかたちで、第1段階の対象種が発表された(2015年11月18記事参照)。今回、同プログラムの規則案が公表され、対象種と、対象種の輸入者に求められる事項が明らかになった。

 

 今回の規則案で示された対象種は以下のとおり。

 

 アワビ(Abalone)、タイセイヨウダラ(Atlantic Cod)、マダラ(Pacific Cod)、ブルークラブ(Blue Crab)、タラバガニ(Red King Crab)、シイラ(Dolphinfish)、ハタ類(Grouper)、レッドスナッパー(Red Snapper)、ナマコ類(Sea Cucumber)、エビ類(Shrimp)、サメ類(Sharks)、メカジキ(Swordfish)、マグロ類(Tunas)〔マグロ類には、ビンナガマグロ(Albacore)、メバチマグロ(Bigeye)、カツオ(Skipjack)、キハダマグロ(Yellowfin)、クロマグロ(Bluefin)が含まれる〕

 

 201510月の発表ではクロマグロは対象外となっていたが、今回は一転して対象種に含まれた。その理由としてNMFSは、クロマグロは他のマグロ類に比べてIUU漁業のリスクが少ないとしながらも、マグロ類に対して一貫した制度を適用するため、と説明している。

 

 今回の規則案では、対象となる水産物およびその水産物から製造された水産加工品を輸入する際に申請が必要となるが、高度加工品(魚油、ソース、スティックなど)は対象外となった。また、米国で漁獲あるいは収穫された水産物は、既に情報収集が行われているため、対象外となる。

 

<輸入者は許可と報告、記録保持が求められる>

 トレーサビリティープログラムが施行されると、対象の水産物および水産加工品を米国に輸入する者は、NMFSから国際水産貿易に関する許可(IFTPInternational Fisheries Trade Permit)をあらかじめ取得しなければならない。そして、対象水産物の輸入時は以下の情報について報告することが求められる。

 

1)漁獲者または収穫者に関する情報

 船舶名および旗国名、許可証、個別漁船識別番号(Unique vessel identifier、該当する場合)、漁具の種類、養殖施設の名前

 

2)漁獲および加工された水産物に関する情報

 魚種名(学名、市場での一般的な種名、ASFIS番号)、製品概要、製品名、製品重量

 

3)水産物の収穫および水揚げに関する情報

 漁獲または収穫された地域、漁獲・収穫日、養殖施設の場所、初めて水揚げされた場所と日、水揚げ後の販売先名(加工業者、流通業者、運搬船)

 なお、1回以上の収穫からなる製品は、それぞれの収穫に関する情報の報告が必要となる。

 

4NMFSが発行する輸入者のIFTP番号

 

 これらの情報は、財務省などが作成している国際貿易データシステム(ITDS)の下、関税国境保護局(CBP)が管理するコンピュータシステム(ACE)を通じて、輸入者またはその代行者が申請を行う。申請されたデータは自動検証が行われ、さらに一部の貨物はデータが正しいかどうか、NMFSが検査する。輸入者が適切なタイミングで情報提供を行わなかったり、情報に偽りがあるとNMFSが見なした場合には、積み戻し処分や商業用の輸入貨物からの排除、輸入者への法的処分などが行われる。

 

 また輸入者は、対象となる水産物および加工品の米国への輸入から収穫までの情報をさかのぼることができるよう、5年間記録を保持し、同局の求めに応じて提示できるようにしておかなければならない。情報には、転載業者、加工業者、保管施設、流通業者などが含まれる。

 

<輸入時の提出データの簡素化も検討中>

 NMFSは、輸入時のデータ提出を簡素化する方法も検討している。第三者の水産物認証プログラムや信頼できる輸入者プログラム(Trusted Trader Program)を利用することで、対象となる水産種の輸入プロセスの効率化を目指す。

 

 米国では水産物の輸出入に関するモニタリングプログラムが幾つかあるが、トレーサビリティープログラムで申請が必要とされる情報と、既存のプログラムとの重複を避ける、とNMFSは説明している。

 

 IUU漁業および水産物偽装のためのタスクフォースの行動計画に記載されたスケジュールに基づき、今回提案された規則案は20169月から実施となる。しかしNMFSは、実際に輸入者が規則に従うよう要求されるのは、準備期間が想定されるため、最終規則公表の90日~12ヵ月後になるとみている。また、政府は将来的に、同プログラムの対象種を全ての輸入水産物に拡大することを目指している。NMFS201612月までに公表する報告書の中で、プログラム拡大のスケジュールについても言及する予定だ。

 

(三橋謙一、熊谷樹里)

(米国)

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