海洋大気庁、違法漁業や偽装水産物の特定基準案と候補種を公表-来秋からトレーサビリティープログラムを実施-

(米国)

ニューヨーク事務所

2015年09月09日

 海洋大気庁(NOAA)は8月3日、違法漁業や偽装の危機にある水産物を特定するための基準案と、それに基づく候補種を公表し、これらについてパブリックコメントを受け付けている。2016年9月からは、米国で流通する水産物に関するトレーサビリティープログラムが実施される。

<大統領の指示でタスクフォースを立ち上げ>

 基準案はホワイトハウスの国家海洋会議が設けた違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, and UnregulatedIUU)漁業と水産物偽装に関する委員会(以下、委員会)が策定した。オバマ大統領の指示に基づいて、20146月にIUU漁業および水産物偽装撲滅のためのタスクフォースが立ち上げられた後、20153月に行動計画が公表され、委員会が設置された。

 

 政府はタスクフォース立ち上げの背景について、「IUU漁業は世界中の水産資源や生態系に悪影響を及ぼしているだけでなく、法にのっとって漁獲された水産物を市場で不利な立場に追い込んでおり、その損害は全世界で毎年100億~230億ドルに上るとされる。また、全米の小売業界においては看過できないほど水産物の不正表示が行われていると報告されている」と説明している。

 

<タラバガニやマグロ類が候補種に>

 83日に委員会はトレーサビリティープログラムの一環として、IUU漁業および水産物偽装の危機にある水産物を特定するため、以下の7項目を基準案として発表した。

 

○種の管理、取り締まりが実現可能であること

○効果的な漁獲記録制度が存在すること

○複雑な加工流通過程を有すること

○他の種と偽って扱われた履歴があること

○不正表示の履歴があるもの(税関申告上など)

○漁獲違反の履歴があるもの

○不正表示などにより人体に悪影響を及ぼした履歴があるもの

 

 一方で、米国内に商用として流通する全ての種を以上の項目に沿って分析することはできないとして、委員会はさらに以下の3つの要素で絞り込みを実施した。

 

○米国内での漁獲額および輸入額(2014年の米国内での漁獲額もしくは輸入額が1億ドルを超えた種が対象)

1ポンド(454グラム)当たりの生産コストが高い種

○委員会の代表者の専門知識を基に提案された種

 

 その上で委員会は、基準案に基づく次のような候補種を公表した。

 

 アワビ(Abalone)、タイセイヨウダラ(Atlantic Cod)、ブルークラブ(Blue Crab)、シイラ(Dolphinfish)、ハタ類(Grouper)、タラバガニ(King Crab)、マダラ(Pacific Cod)、レッドスナッパー(Red Snapper)、ナマコ類(Sea Cucumber)、サメ類(Sharks)、エビ類(Shrimp)、メカジキ(Swordfish)、マグロ類(Tunas)。

 

 委員会は、水産業とサプライチェーンの複雑さを考慮すると、あらゆる種がIUU漁業および水産物偽装の対象になり得るとしているが、今回はトレーサビリティープログラム実施の第1段階として優先すべき種を特定した。基準案と候補種について、911日までパブリックコメントを受け付けており、ウェブサイトおよび郵送で意見を寄せることができる。

 

10月までに特定基準と候補種を最終決定>

 委員会はパブリックコメントを基に、201510月までに危機にある種の特定基準と候補種を最終決定する。その後、関係当局が候補種に関するデータ収集を行うための戦略を立て、20168月にトレーサビリティープログラムに関する最終規則が公表され、同年9月から実施予定となっている。

 

 同プログラムは実施後も定期的に評価が行われ、201612月までに発表予定の報告書には、実施後の評価と同プログラムを拡充するためのスケジュールが記載される。同報告書ではトレーサビリティーの対象を水産物全種に拡大することの可能性についても言及される予定だ。

 

<漁獲者や加工者情報などの申請を検討>

 なお、委員会は同プログラムの下、米国に入ってくる水産物に関して以下4項目の情報を申請させることを検討している。

 

1)水産物の漁獲者、加工者に関する情報(船舶名、船舶旗国、養殖場施設名、加工者名、漁獲方法を含む)

2)漁獲、加工された水産物に関する情報(魚種名、製品説明、製品名、製品形状、数量、重量を含む)

3)漁獲、水揚げされた場所、日時に関する情報(エリア、漁獲日時、養殖施設名・場所、初めて水揚げされた場所、日時を含む)

4)米国で流通するまでの水産物、水産加工物の管理方法に関する情報(製品の積み替え、加工、再加工、製品の混合状況を含む)

 

 現段階では、輸入者(もしくは米国への輸出者)がInternational Trade Data SystemITDS)という電子システムを通してこれらの情報を申請する方法を検討しているという。

 

(三橋謙一、熊谷樹里)

(米国)

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