トルコ企業は日本企業に技術と資金協力を呼び掛け-中央アジア・ビジネスセミナー(3)-

(中央アジア、トルコ、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)

欧州ロシアCIS課

2016年01月27日

 中央アジア・ビジネスセミナーの最終回。旧ソ連に積極的に進出したトルコ企業は、中央アジアでもトルクメニスタンを主として活発にビジネスを展開している。旺盛な海外進出意欲を持つトルコ企業は技術力、資金力を持つ日本との協力を呼び掛けている。

<トルクメニスタンを中心に活動>

 中央アジアにおけるトルコ企業の活動状況について、ジェトロ・イスタンブール事務所の中島敏博調査部長は、次のように説明した。

 

 トルコはタジキスタンを除けば中央アジアの国々と同系統の言語を話し、民族的、宗教的にも近い関係にある。1991年のソ連崩壊後、他国に先んじて中央アジアに進出したのもトルコ企業だ。イスタンブールからは中央アジア各国主要都市への直行便もある(図参照)。

 中央アジアでトルコ企業が最も活発なのはトルクメニスタンだ。ニヤゾフ・トルクメニスタン初代大統領時代から、トルコ企業はビジネスを築き上げてきた。当時、チャルック財閥は活動の場をトルコ国内よりもトルクメニスタンに求め、人脈をつくり、繊維工場などを活発に展開し、同財閥のアフメド・チャルック会長はニヤゾフ政権の副大臣格として優遇されるまでになった。現在はチャルック傘下のGAP建設のほか、ルネッサンス建設、ポリメクスの建設大手3社などが大型ビジネスを受注しており、チャルックとルネッサンスはトルクメニスタンで日本企業とも組んで事業を行っている。

 

 カザフスタンでは、同国政府がインフラ開発などに加えて製造業などで、コチやサバンジュといったトルコの大手財閥の進出を期待している。トルコの大企業はカザフスタンでのビジネスの透明性に疑問を持ちロシアに拠点を置いている状況だが、中堅・中小企業は建設や食品関連で活発に進出しており、カザフスタンがユーラシア経済連合(EEU)の加盟国であることに優位性があるとみている。

 

 ウズベキスタンはトルコ企業にとって好ましい状況ではない。2012年にトルコ系のテレビ番組の放映停止や学校の閉鎖のほか、不正ビジネスを理由にショッピングモールを含む約50のトルコ企業が廃業を余儀なくされた。宗教問題について当局の取り締まりを受けたことが原因といわれている。ウズベキスタンでのトルコ企業との協業には慎重さが求められる。キルギスやタジキスタンはトルコから距離があり市場が小さいためビジネスは限定的だが、キルギスでは茶の包装工場を操業しているベタ・グループのように、現地で成功してトルコでのビジネス展開につなげている企業もある。

 

<トルコ企業の長所は意欲、弱点は技術・資金不足>

 トルコ企業の特徴はまずやってみよう、という意欲にある。トルコ企業は技術と資金不足が弱点であり、この点を日本企業にカバーしてもらいたいと期待する。トルクメニスタンのように、情報統制が厳しくトップダウンでコンプライアンスが通用しない点については、トルコ企業は「トルコ式ビジネスで対処する」という。「トルクメニスタンで日本企業と組みたい」とポリメクスからジェトロにも盛んに引き合いがある。また、中央アジアでは中国、ロシア、韓国とは利害が衝突することがあるが日本企業とはあまりない、というトルコ企業の声もある。ただしドイツや中国と組む例もあり、日本企業のみを協力相手にしているわけではないことに留意する必要がある。

 

<アゼルバイジャン経由の貨物輸送に注目>

 トルコ軍によるロシア機撃墜事件に対するロシアの対トルコ経済制裁(2015年12月2日記事12月3日記事参照)は、農産品や食料品の輸入禁止などに限られているが、トルコから中央アジアへの輸送面で影響が懸念されている。物流業者によると、中央アジアへの輸送は、イスタンブールから黒海沿岸のロシアのノボロシースク経由と、ロストフ・ナ・ドヌからドン川、ボルガ川を通じてカスピ海経由で輸送するのが主流だ。例えばトルクメニスタンで日本企業と合同で建設するプラント用の資機材などは、ロストフ・ナ・ドヌ経由のルートが利用される。現在は冬場で使われていないが、制裁の長期化によって今後使えなくなることが懸念されている。

 

 現在、トルコからの貨物輸送はノボロシースク経由とジョージア経由の陸路が利用されているが、通関の際に、制裁対象以外の品目でも検査が強化され、輸送が滞るなど厳しい状況にある。この状態が続くと輸送に大きな影響が出るとして、トルコでも日本でも企業が懸念している。代わって注目されているのがアゼルバイジャンを経由しカスピ海から陸揚げするルートだ。コストはかかるが使えるルートとみられている。トルコ政府はアゼルバイジャン政府とこのルート活用で合意している。アゼルバイジャンのバクーとトルクメニスタンのトルクメンバシを結ぶフェリーの定期便化などの話もある。

 

(芝元英一)

(中央アジア、トルコ、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)

ビジネス短信 d568d0441fa84238