総額20億ユーロの緊急雇用対策を発表

(フランス)

パリ発

2016年01月27日

 オランド大統領は1月18日、失業者の職業訓練や中小企業の雇用支援など緊急雇用対策を発表した。総額20億ユーロをかけ、10%を超える水準で高止まりする失業率を改善させたい考え。しかし、主要労組は「企業寄りの政策だ」と批判。経営者団体や民間エコノミストは、政策の方向性を評価しながらも、長期的な効果については疑問視する向きが多い。

<中小企業に雇用報奨金、失業者に職業訓練>

 オランド大統領は118日、緊急雇用対策の目的について、雇用情勢の改善とともに、「企業が経済情勢に応じて従業員の数を調整でき、労働者が自由に職業を選択し、自由に訓練を受け、キャリアを築くことを保証する」フランス版フレキシキュリティー(注)を構築するものだと述べた。歳出削減により総額20億ユーロの財源を捻出し、このうち5割を失業者の職業訓練に充てる。対策の主な内容は以下のとおり。

 

2013年に導入した「競争力・雇用税額控除措置(CICE)」による企業の税負担軽減措置を恒久化する。CICEは法定最低賃金の2.5倍以下の従業員の賃金を合計し、その6%を法人税から税額控除できるというもの。労働コストの軽減を雇用創出につなげる狙い。

 

○従業員250人未満の中小企業が、失業者を法定最低賃金の11.3倍の賃金(月額1,466.621,906.61ユーロ)で無期雇用契約または6ヵ月以上の有期雇用契約により雇用した場合、2年間の期限付きで年間2,000ユーロの報奨金を支給する。

 

○失業者50万人に職業訓練の機会を提供する(総額10億ユーロ)。

 

○企業レベルの労使協議により、残業手当の割増率など、労働時間に係る規制の適用を柔軟にする。現行の労働法では残業時間に適用される割増賃金率は産業別労働協約、企業協定または事業所協定により自由に定められるものの、割増賃金率は10%を下回ってはならないとの制約がある。また、こうした協約や協定がない場合、1週間の残業のうち最初の8時間は25%、8時間を超える分は50%の割増賃金率を適用すると定められている。

 

○労働裁判所が決める労働紛争の損害賠償金に上限を設ける。20158月に発効した経済と雇用を活性化する「経済の機会均等・経済活動・成長のための法律(通称「マクロン法」)には当初、同措置が盛り込まれていたが(2015年6月23日記事参照)、憲法評議会により従業員20人未満の企業と20人以上の企業で金額に差をつける形式が「従業員が被った損害の大きさに関連しない」として削除されていた。

 

<労使双方から効果を疑問視する声>

 こうした政府の緊急雇用対策について、フランス最大の経営者団体フランス企業運動(MEDEF)のピエール・ガタズ会長は政策の方向性を評価し、「具体的に実現するのが待たれる」と政府に迅速な施行を求めた。一方、中小企業経営者団体(CGPME)は、中小企業を対象とした2年間の雇用報奨金の導入を歓迎しながらも、「恒久的な社会保険料軽減の方が望ましい」「雇用創出は受注状況や景気の先行きに対する信頼感が影響する」などとし、政策の長期的効果を疑問視する声明を発表した。

 

 最大の労組であるフランス労働総同盟(CGT)のフィリップ・マルチネス書記長は「(労働者よりも)企業が受け取る恩恵が多い」とし、「過去にもこうした政策が施行されてきたが、失業率が下ったことはない」と批判した。

 

 民間エコノミストの間でも懐疑的な見方が大勢で、社会保険料の軽減、職業訓練の拡充など「新鮮味のない、これまでの政策を詰め込んだだけ」との声が聞かれた。フランス景気経済研究所(OFCE)のエコノミストであるエリック・エイヤー氏は、オランド大統領が政策の目玉と位置付ける失業者向けの職業訓練拡充について、「対象者をうまく絞れれば効果が期待できる。(無資格者ではなく)既にある程度の資格を持った失業者を市場ニーズに合わせるよう訓練すべきだ」とした。

 

(注)フレキシキュリティー(flexicurity)とは、柔軟性を意味する「フレキシビリティー」と、保障を意味する「セキュリティー」を組み合わせた造語で、企業が業績や景気に応じて従業員数を調整しやすくするなど労働市場の柔軟性を維持しながら、解雇された労働者の再就職に向けた職業訓練や生活保障などを強化するという雇用政策を指す。

 

(山崎あき)

(フランス)

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