TPP締結を見越した縫製関連分野が金額上位を独占-2014年の中国企業の対外直接投資動向-

(ベトナム、中国)

ハノイ事務所

2015年12月15日

 2014年の中国の対ベトナム直接投資は、認可額ベースでは前年比78.7%減と大きく減少した一方、件数は16.3%増と堅調に推移した。これは、前年に大型の石炭火力発電所建設案件があったことの反動だ。金額上位の案件は、縫製分野における環太平洋パートナーシップ(TPP)締結を見越した中国からの生産移管とみられるものが占めた。

<認可額は前年比78.7%減>

 外国投資庁(FIA)の統計によると、1988年から20158月までの中国の対ベトナム直接投資の累計(認可ベース、新規・拡張の合計)は、1,177件、848,300万ドルと投資国・地域の中で9番目の規模(金額ベース)となっている(表1参照)。業種別では、製造・加工が474,400万ドル(構成比55.9%)と過半を占め、次いでインフラ(204,700万ドル、24.1%)、建設(56,300万ドル、6.6%)の順となっている。また地域別では、ビントゥアン省が202,700万ドルと認可額全体の約4分の1を占め、次いでラオカイ省(8億ドル)、タイニン省(73,600万ドル)、以下、クアンニン省、ビンズオン省の順になっており、南部および北部中越国境地域が多い。ビントゥアン省が突出しているのは、2013年に認可された第1ビンタン石炭火力発電所建設案件(認可額201,800万ドル)があるためだ。

 2014年の投資認可の件数は143件(前年比16.3%増)、金額は49,700万ドル(78.7%減)と、件数は増加したものの金額は大きく減少した(表2参照)。このうち新規投資額は前年比87.9%減と大幅に減少したが、これは前述の発電所建設案件があったことの反動だ。

 

 主な案件は、天虹紡績集団(テクスホン)による北部クアンニン省での繊維・縫製品製造(3億ドル、香港経由)、同集団による同省ハイハー工業団地造成(21,500万ドル、香港経由)、百隆東方による南部タイニン省での綿糸製造(15,000万ドル)と縫製関連案件が占めた。これは、環太平洋パートナーシップ(TPP)締結を見越した中国からの生産移管とみられる。当地政府関係者によると、こうしたTPPの恩恵享受を狙った進出については、「原材料輸入は中国からがほとんどだったが、TPP締結後は日本など参加国からの輸入増加が見込まれる」とのことだ。

<製造業以外の案件も徐々に増加>

 201518月の投資認可の件数は87件、金額は49,800万ドルとなり、金額で既に20141年間の累計を上回った(表3参照)。主な案件としては、段ボール原紙製造大手の理文造紙による南部ハウザン省での包装紙・紙袋製造案件(28,000万ドル)、鉄鋼大手の宝鋼集団による中部・トゥアティエンフエ省での製缶工場建設案件(7,480万ドル)があるが、全体としては中小規模の案件が多い。最近ではサービス業や農業などの製造業以外の案件も増えつつあり、例えば北部では中国企業向けにサービス提供を行う物流関連企業の進出も徐々にみられるようになっている。一方、農業分野では数年間だけ投資をした後、突然中止となるケースや、管理をベトナム人に任せ切りにし、問題が発生すると投資家が連絡を絶つケースがあるなど、問題も散見されるようだ(当地政府関係者)。

 また、これまで中国企業の投資に付随する問題点の1つとして、不法就労者の多さが指摘されていたが、20151月からベトナムの出入国管理法が改正されたことや中国側の対外投資管理が強化されたことなどから、一部改善傾向にある。

 

 ベトナム政府のウェブサイトによると、グエン・スアン・フック副首相は915日に北京で中国の張高麗副首相と会談し、中国政府に対してベトナムの農林水産物の輸入促進および中国企業による対ベトナム投資拡大を通じて自国産業への支援を提案した。他方、今後の投資動向の見通しについては、8月の人民元の切り下げが、中国企業による対外進出の勢いにどのように影響するかを注視する必要がある。

 

 南西アジア地域(インド、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン)における2014年の中国企業の対外直接投資動向は特集「南西アジアで増す中国の存在参照。

 

(竹内直生)

(ベトナム、中国)

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